第26回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門出展作品
「マリー・イズ・ハッピー(原題 MARY IS HAPPY, MARY IS HAPPY)」
ナワポン・タムロンラタナリット監督:単独インタビュ-
MARY IS HAPPY, MARY IS HAPPY (OFFICIAL TEASER)
日本を舞台にするならタイVS日本
タイの混沌と、日本の秩序をぶつけてみたいです。
映画公開後、ナワポン・タムロンラタナリット監督にインタビューをお願いしました。
斬新なアイディア、バンコクらしさを全面に出しながら、どこかノスタルジックな感覚を大切にした映像美を含め、外見から芸術化肌の監督さんなのでは?…と想像していましたが、お会いしてびっくり。笑顔の爽やかな優しい好青年で若干29歳!
今後もタイ映画界をどんどん面白くしていきそうなユニークな感性の持ち主でした。
— 監督は、日本は初めてですか?
2回目です。
— 日本で気に入っている場所はありますか?
ブックオフ!
— ブックオフですか(笑)?
前回は写真家の川内倫子さんの写真集を買いました。素晴らしい写真集もブックオフならディスカウント価格で買えるので5か所まわりましたよ!
ブックオフって、店舗によって雰囲気が違って別の国に行ったみたいで楽しいですね。
— 見る観点が違いますね(笑)。
ありがとうございます(笑)。実は今日も行ってきて、映画のプレスキット(映画の解説資料)を買ってきました。日本の写真集や出版物は非常にデザイン性がすぐれていて、自分の作品にも参考になります。
— 映画にはカノムトーキョーの屋台が重要な話の場面になりますが、もしかして映画祭を意識していたのですか?
あははは・・・。深層心理で実はそうしていたのかもしれませんね。実はカノムトーキョーって、高校の裏でよく屋台が出ているんですよ。でもタイの映画で出てきたことがないので、高校が舞台なら絶対に出したいと思ったんです。
— ヒロイン、先生、お店の方もそうですが、全員「ユニフォーム」での出演ですよね。眠るときすら同じ服でしたが、ファッション面で何か考えがあったのでしょうか?
そうですね。出演者全員がユニフォームを着ることで「支配」を表しました。学校にいるときも遊びに行くときもずっと体操服です。
— タイの人は眠るとき、靴は脱ぎますよね(笑)?
もちろん(笑)!靴も履いたまま寝てもらうことにしたのは、この物語が完全にファンタジーであることを感じてほしかったからです。
ヒロインが体操服を着ているのは、オーディションの時、マリー役のパッチャヤー・プーンピリヤさんが、あの体操服を着てきたからなんです。そのままキャスティングにきてほしくて、あれをユニフォームということにしました。しかも彼女がデザインした体操服なんですよ。
— 救急隊員、先生たち、カノムトーキョーの屋台の人まで脇役のキャラクターが濃いなあ、と思ったのですが、このキャスティングはどのように行いましたか?
これも、ファンタジーだからこそ、脇役も強烈な方が良いと思って、考えました。例えば先生役にはプラプダー・ユンさん、クルー(先生という意味)というバンドのノイさんなど、演技が初めての人ばかりですが、個性の強いキャラクターの方ばかりです。
— 先生の一人がずっと鼻の頭にガーゼを当てていて、最後までそのガーゼについて劇中で説明がなくて気になって仕方がなかったです(笑)。
あれですか(笑)。その先生は「スタントマンかコメディアンになるから辞める」という言葉を残して退職してしまうんですが、副監督の解釈では、「スタントマンになる練習をしていてケガをした」だそうです。誰にも本当の事はわかりません。
— アソシエイトプロデューサーのパッチャリン・スラワッタナーポーンさんとのタッグはどうですか?
(同席したパッチャリンさんと顔を見合わせて)この作品は、ベネチア国際映画祭に合わせて7か月で急いで作りました。
本来これくらいの作品だと1年は時間が必要なんです。そのかわり深く考えず無意識で作れてよかったんですけど。脚本から彼女とは仕事をしているので非常にやりやすかったです。
— もめたりすることはありますか?
殴り合いですか(笑)?
— いやいや(笑)、口論です。
撮影を始めると脚本と違ったり、うまくいかないことが多くあります。コントロールできないこともあって、議論になる事はありますね。でも、議論することでアイディアが出るし、作品が良くなっていく。議論は逆にしないと、良い作品にはならないと思っていますね。
— タイランドハイパーリンクスはタイが好きな人が沢山見ているサイトです。監督のようなクリエイターが好きなスポットを知りたいと思うので、教えていただけませんか?
紀伊國屋・・・(笑)。
— (爆笑)・・・紀伊國屋ですか。日本の書店ですね。
本当は紀伊國屋だけど、それはやめておきましょう(笑)。
タイの魅力あるスポットって、お寺や自然ではないと、僕は思っています。ルールがないのが魅力・・・「混沌」こそタイの魅力です。
日本は美しくデザインされていて、どこにカメラを向けても映画が撮れそうです。でもタイはそうじゃない。きれいな所は本当にきれいですが、汚いところは汚い。
例えば…タイは自慢できるほどのテクノロジーもあるのに、精霊信仰が一般的です。アイフォンが壊れて祈る人がいるんですよ(笑)。祈ってもアイフォンは治らないんですけど。
— それはかわいらしいですね(笑)。
そんな、何でもあり、何でもいい、気楽に行こうというのが良い面でもあり、悪い点でもあるんですが、そこが魅力なんだと思っています。
— 先ほど日本ではどこでも映画が撮れそうだと言っていましたが、日本を舞台に映画を撮るとしたらどんな作品を撮りたいですか?
あっ、それパッチャリンさんともさっき話していたんですよ!
タイ人が日本に来て、日本の秩序に遭遇して、びっくりしたり苦しんだり…無秩序VS秩序、みたいな映画を撮影したいです。どこの国で撮ってもタイの要素を混ぜると絶対に面白いと思うんですよね。
タイはハリウッド映画や母国の大作映画が一般的で、インディーズ映画はあまり興味を持たれない…と語るナワポン・タムロンラタナリット監督。日本では「ベネチア国際映画祭出展」というだけで話題になりますが、タイでは「ベネチア国際映画祭出展」とポスターに書いてあると、「とりあえずタイ人はビビる」・・・とのこと。わかりづらい映画なのではないかと警戒されてしまうのだとか。
確かにコントにしても、コマーシャルにしても「べタ」なものが多く、逆にそれがシュールで、タイに行くと素直に爆笑してしまいます。だから…「わかりづらいんじゃないかと思って、とりあえずビビる」という言葉が妙にタイ人を表していているように感じ、微笑ましくも思いました。
それでもここ数年、インディーズ映画を愛する人たちが増え始め、タイのインディーズ映画を取り巻く環境はかなり良くなったそうです。
ナワポン・タムロンラタナリット監督!これからも独自の「はっ」とするような視点の映画を作ってください!そして、いつか日本を舞台にした作品を見せてくださいね!
(2013年10月21日掲載 インタビュアー 吉田彩緒莉 )
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