|
|
計らずもこのコラムで一番登場回数が多くなっている、ルークトゥンでは最も人気がある歌手の1人タカテーン・チョンラダー(ตั๊กแตน ชลดา)。
それは彼女が人気があるという証と同時に、タカテーンが今キャリアの中で最も充実した活動しているという結果でもあります。そのタカテーンが前作から約2年ぶりにニューアルバムをリリースしました。
いくら人気歌手であるとはいえ、CDが売れない非常に厳しい状況であるタイの音楽業界で今アルバムを発売するというのは、大きな賭けでもあります。
そして、それを成功させるには地道な広報活動が必要である事は、タカテーンのような人気歌手でも変わりありません。
それを証明させるかのように彼女はアルバム発売前後の約2週間、メディアやファンへのプロモーション活動を積極的に行ってきました。その活動を時系列に追って見たいと思います。
まず最初は1月27日にアルバムからの第1弾シングル「ヤーク・ラップ・ター・ナイ・オーム・ゴート・ター(อยากหลับตาในอ้อมกอดเธอ)」のミュージックビデオが公開されたことでした。
この日はタカテーン本人もケーブルテレビ「FAN TV」に出演し、本人も全編を見るのは初めてというミュージック・ビデオをファンと共に鑑賞しました。
◆ตั๊กแตน ชลดา(タカテーン・チョンラダー )/ อยากหลับตาในอ้อมกอดเธอ(ヤーク・ラップ・ター・ナイ・オーム・ゴート・ター)
「あなたの腕に抱かれて眠りたい」というタイトルのこの曲は、これまで三角関係の女性の怨念を歌うことが多かったタカテーンにしては、等身大の自身に近いとても女性らしい優しさを感じさせる歌になっています。
そして、それから1週間後の2月4日には、いよいよタカテーンにとっては8作目になるオリジナルアルバムが発売されました。
発売日当日、タカテーンはFAN TVに自身のバンド「TAN BANDD」共に出演し、その後アソークにあるGMMビルの1Fロビーで本人も来てのCD販売会が開催されました。
◆2月4日のCD発売会の様子
筆者も仕事終わりにGMMビルへ直行し、ギリギリでしたがタカテーン本人にも会えて、ニューアルバムを購入しました。
アルバムには、タカテーンが得意としている三角関係を歌った歌はもちろん、彼女の陽気な性格を反映した賑やかな曲や、タカテーン開発のナムプリック「ボンテーン(บองแตน)」のCMソング、ロックバンド「So Cool」のヴォーカリストで現在は俳優としても活動しているジョークとのデュエット曲など、ヴァリエーションに富んだ曲が収録され、充実したアルバムとなっています。
そして、この一連のプロモーション活動のメインイベントと呼べるのが、2月8日コラート(ナコンラーチャシーマー)のヤーモー(タオスラナーリー)像前で行われた、アルバム奉納式です。
コラートはタカテーンの出身地であり、育った場所もこのヤーモー像の近くという事もあって、彼女にとってヤーモーは自身の家族と同じくらい大切な存在であることに違いありません。
デビュー以来行っているというこの奉納式には、地元のファンが沢山集まり、さらにテレビなどのメディアも取材に来ていて、あまり大きくない広場は人でごった返しました。
白いシャツという厳かな服を着て現れたタカテーンとTAN BANDDの面々。現場には彼女の両親も顔を見せ、まずは全員でヤーモーに挨拶。次いで宮司に従い祝詞をあげました。
そして、最後はこの日の最も重要な行事である、ヤーモーへのタカテーンの歌の奉納でした。
この時歌われた歌は4曲。タカテーンの代表曲の1曲である「ヂ・ラック・ルー・ヂ・ローク(จิรักหรือจิหลอก)」、ニューアルバムのタイトルソングである「ヤーク・ラップ・ター・ナイ・オーム・ゴート・ター(อยากหลับตาในอ้อมกอดเธอ)」、新作の中でもタカテーン自身が最も気に入っている曲だと話していた「ルーム・トン・ヂャオ・チャーイ、ロン・ターイ・ヂャオ・チュー(เริ่มต้นเจ้าชาย ลงท้ายเจ้าชู้)」、そして最後はボンテーンのCMソング「プララー・Shala la(ปลาร้า Shala la)」でした。
通常のコンサートとは違う特殊な状況という事だけでなく、ヤーモーを見つめながら歌うタカテーンの姿に、いつもとは違う彼女の一側面がうかがえた様な気がしました。
◆Ch3の情報番組「ルアン・ラオ・チャオ・ニー(เรื่องเล่าเช้านี้)」で放送された2月8日の様子
ここ最近のタカテーンの活動を見ていて感じるのは、彼女はルークトゥン業界において歌手のあり方の新しいスタイルを模索しているのではないか、という事です。
ルークトゥンの世界はまだまだ旧態依然としていて、歌手は言ってみれば歌わされているだけの存在。いくら才能があっても、それをバックアップしプロモートしていく人がいなければ華は咲きません。
しかし、タカテーンが今やっていることは、それまでとはまったく違う自己プロデュースというやり方。
欧米や日本では当たり前のスタイルではありますが、タイで自己プロデュースが出来るのはポップスを含めてもまだまだわずか。しかも、ルークトゥンではこれまで他のどの歌手もやっていなかったことですので、その道は想像以上に険しいかもしれません。
そんな中でタカテーンはルークトゥン歌手でありながらも、かなり奮闘していると思います。
事実その結果は如実に現れていて、マイク・ピロムポンやアンクワン・ワランヤーなどがバンドを作りライブを行うなど、他の歌手にも影響を与えています。
アルバムのあり方も同じで、ただ曲を詰め込んだだけのアルバムから、ストーリー性をもった一つの作品として意識が変わりつつある様な気がします。
単にヒットするしないだけの単純な捉え方ではなく、今回のタカテーンのこのアルバムがタイ音楽のあり方の変革のキッカケになってくれればと、願ってやみません。
関連記事
新着記事