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今やタイで社会現象となっている「AKB48」の姉妹グループ「BNK48」。タイランドハイパーリンクスでは独占インタビューをさせていただいたり、現地タイでの取材を通し、お馴染み。そんなメンバーの中でも『第10回AKB世界選抜総選挙』で39位に輝いたキャプテンのチャープランは、全メンバーの中でも抜きんでた存在として注目を浴びている。
BNK48 の活躍は、短期旅行の日本人でもすぐ気付くほど。筆者もバンコク旅行中、ラッピングバスや、看板、テレビコマーシャルなどに頻繁に登場する彼女たちの姿を見るにつけ「凄い人気だなあ・・・」と感心してしまう。
タイには多くのアイドルがいるが、社会現象を起こすような存在は非常に稀。日本好きのタイ人にフィットする衣装やコンセプト、そして、メンバーの選抜にはfacebookやinstgramのLIKE数が大きくかかわるというSNS好きのタイの若者に対する響きやすさ、視聴者が投票するオーディション番組人気のタイにおいて、握手会などで直接会え、応援できる入り込みやすさなど、様々な面でタイ人に受け入れやすかったに違いない。
そんなBNK48の映画が2018東京国際映画祭に出品された。
ピアノの1本の音楽と、真っ白な壁の個室で行われる一期生メンバー26人へのインタビューのみという非常にシンプルな構成。その中に、時々差し込まれるオーディション風景や、ライブシーン。AKB48グループではかなりの数のドキュメンタリー作品がリリースされているが、ライブシーンも出てくる肉薄した躍動感のあるものが多いように感じる。
姉妹グループとしてみると極めて異質にも感じるが、意外な演出と、美しさにおいては、世界に誇れるセンスがあるタイ映画ならではだな、と思ったが、なんと監督は以前「マリー・イズ・ハッピー」でインタビューさせていただいたナワポン・タムロンラタナリット氏!通りで・・・。
そのため「BNK48」のライブパフォーマンスや楽曲が楽しめる映画だと思って見に行くと、がっかりすると思うので先に触れておく。
本編冒頭ではオーディションに合格した時の夢のような瞬間をインタビューで答えている。まだ素人丸出しの普通の女の子としてパイプ椅子に座っている彼女たちの姿や、家族と一緒に神に祈る光景など「タイだなあ」という光景を見受けられ、タイ好きには微笑ましい一幕だ。
「芸能界には興味がないけど、AKB48が好きだった」
「コンセプトが面白かった」
「BNK48 の女の子は完璧ではない。隣にいるような女の子のグループだと聞いて、私も入れるんじゃないかと思った」
などなど、BNK48オーディションに参加した一期生メンバーは、タイの他のオーディションを受ける女の子たちではなかった。タイの芸能人は天然もの・加工もの含めてタイ人離れした美しさや、白い肌がないと合格しない。そこにきて「隣にいるような女の子」だ。そしてエースであるミュージックのようにコスプレや日本文化そのものが好きだったからオーディションを受けたという真の日本好きが圧倒的に多い。
合格した瞬間を語るメンバーの表情は全員キラキラしていた。そしてオーディションに合格した瞬間をとらえたメンバーのはしゃぎっぷり映像は、これ以上はないと思える超ハイテンション。このあたりは「ああ、タイ人だなあ」と思えニヤニヤしてしまう。
しかしインタビューは進むにつれ、彼女たちは暗い表情や、涙を見せ始める。この撮影は1年をかけ、メンバーの本音に迫ったインタビューだが、オーディションに合格したもののタイではありえない厳しい日本式のレッスン、AKB48グループならではの厳しいルール、そして「選抜」というタイにはない制度に翻弄されていく。デビュー曲「会いたかった」の選抜に選ばれなかったメンバーたちの心の葛藤は想像を絶するものだった。
「私は絶対合格すると思ったのに、名前を呼ばれなかったの。あの子はダメね、あの子は合格する。でも私はイケる。でも私も呼ばれなかったのよ!」という者もいれば、「選抜に選ばれなければ露出がない。なぜレッスンに呼ばれるのか意味が分からない」と怒りをあらわにするものもいる。女優経験がありながらエキストラ役しかやったことがなかったというオーンは、当時「どうして有名女優は遅く来て私たちは早く来ないといけないの?」と撮影スタッフに尋ね「通行人は通行人の役を黙ってやってろ」という信じられないほどひどい言葉を浴びせられた経験を持つ。もちろんドラマや映画のテロップに名前が載ることはなかった。それだけに誰より有名になることにこだわっていた。「名前がないというのは恐怖。有名になれないと意味がないの。誰にも覚えてもらえないことが一番恐い」という言葉に、彼女がセンターに選ばれた「RIVER」の力強い歌詞、曲を思い出した。これ迄の経験から「いつか見てろよ」という思いを、思い切り押し出すには最適な曲だったように思う。「曲のイメージに合った人がセンターになる」と、タイ・フェスティバルのインタビュー時、AKB48からBNK48に移籍した伊豆田莉奈が言っていた通りだが、あのメンバーの中であの曲のセンターは、彼女にしかできないように思えた。
日本のアイドルは選抜に選ばれなくても、センターになれなくても、そのアイドルのメンバーであることが誇りであることをよく口にする。でもプライドの高いタイ人の感覚は違う。集団でいても、自分が目立たないと、自分が有名になれないと、BNK48 にいる意味を感じられないのだ。
スポーツでもタイは団体競技に弱い。スポーツの応援も賭け事が絡めば絡むほど盛り上がる。純粋にその団体の一員としてだれかをサポートする、団体の一員として盛り上げる役にはまんぞくえきない個人主義の人が多いように思う。それはアイドルでも一緒なのだなあとつくづく感じた。
FacebookやinstgramでのLike数が選抜の要素になるとも言われ、自分とは全く異なる可憐なキャラクターを演じるメンバーは、次第に息切れを感じ始め、本音を出すようになる。そして、社会現象を起こした2曲目「恋するフォーチュンクッキー」の選抜に漏れた時点で卒業していったメンバーもいた。プライドの高いタイ人女性は、自分が目立たないグループにいても意味がないんだ。見切りも早い。我慢強くないところもタイ人らしい。
そしてやっと憧れの選抜に入り、自分の姿をポスターで見かける機会が増えたプーペも「自分の出演シーンはたった2秒!同じ選抜でもメディアの露出が全然違う」と怒りを露わにし、次から次へと欲望が強くなっていくのがわかる。
オーディションを勝ち抜いた26名は毎日レッスンで顔を合わせ、苦労を共にする大親友になった。しかし「選抜」という制度や露出の格差に、いつの間にかライバルに。10代の少女たちは精神的に追い詰められていく。これまでにない環境に、複雑な気持ちを吐露するメンバーもたち。キャプテンとして冷静かつ平等にメンバーを見ているチャープランでさえ「私たちは友達を蹴落とすの。最悪よ」と思った時期もあったという。選抜漏れの「アンダー」メンバーは、ずっと仲良くしていたメンバーが選抜となり、人気を勝ち得ている中で、今までのように一緒にいると「選抜メンバーを使って自分が売れたいの?」という誹謗中傷を浴びたという。
絶対に選抜から外されないチャープランへの異常な嫉妬も、日本では考えられないこと。選抜メンバーも認める努力家であるジップは一度も選抜に選ばれたことがなく、ゲームの対戦相手のキャラクターの顔がチャープランであっただけで、ゲームの手が止まってしまい「もううんざりだと思った」と泣く。片や嫉妬の中心にいるチャープランは「自分がなりたくてなったわけじゃない。給料だってみんなと同じ。運営側に言われたから色々な事を犠牲にして頑張ってるのよ。誰にわかるの?私が何を犠牲にしたかなんて」と、気丈な表情のまま、涙を流す。底辺と頂上が流す涙は全く別の意味を持っていた。
うーん、失礼ながら毎度おなじみタイのドラマの女性同士の喧嘩シーンを見ているようだった(笑)。タイのドラマのシナリオはワンパターンだなー、なんて思っていたが、そうではなくて、よくあることを描いていただけなんだな・・・と妙に納得する。
タイランドハイパーリンクスのインタビューで「喧嘩はするのか?」という筆者の問いかけにチャープランが「女の子によくありがちな(笑)。」という言葉を返すシーンがある。実はあの答えは乱暴にならないように少し丁寧に書き換えたものだ。彼女は日本語で少々投げやりにこう言ったのだ。
「女にありがちな」
このチャープランの涙、発言を見て、あの時、あの言葉が出た理由を、まざまざと知ることになった。
筆者の友達のタイ好き日本人男性は、タイ人の彼女がいたり、タイ人女性が好きだったり、タイ人女性と大揉めに揉めたりしている人も多い(笑)。よく聞かされる話は嫉妬、そしてわがまま、プライドが高い、自己中心・・・おいおい、このインタビューを見て感じたことしかないじゃないか!
本音で語るBNK48は日本人の思うアイドルではない。コンセプト通り隣にいるようなタイ人女性なのだ。AKB48の姉妹ユニットでありながら、もうここは完全にオリジナル。タイ人女性の縮図がそこにはある。
映画を見ていない人のために具体的な明言は避けるが、日本のアイドルが絶対に触れないであろうインタビューにも、人気メンバーが衝撃の発言をしている。それはAKB48グループの掟「恋愛禁止」についてだ。ためらうことなく「BNK48に入るまでは彼がいました。その彼に別れを告げてきました」と答えるのだ。多くの日本のアイドルに取材してきたが、たいていこういった質問や答えは削除されてしまうのだが、まったく包み隠さない。
この映画の監督ナワポン・タムロンラタナリット氏は「続編もお願いしたい」と依頼を受けたそうだが、速攻で断ったという(笑)。まるで007役のダニエル・クレイグが「続投するくらいなら手首を切った方がマシ」と言ったような印象を受けるが、なぜこの映画の監督の彼がそんな発言を?ハードなアクションなど関係ないのに(笑)!
なぜ断ったのかと問われると彼は苦笑いしながらこう答えた。
「1年間26人の女性のメンバーの感情を受け止め、1年間精神科医のようだった。感情の津波に襲われている気分でした・・・」
考えてみてほしい。26人の女性に日頃の愚痴を1年間聞かされたら? ナイーブな男性なら鬱になってもおかしくない。なんとなくタイ人男性がどうして優しいのか、ちょっと頼りないのか、ゲイが多いのか分かったような気がする。女性が強すぎるのだ。
可愛くて優等生。好感度ばかりを気にする日本人アイドルとは違う。そこがBNK48 の最大の魅力なのかもしれない。伊豆田莉奈、ミオリの影が少々薄い理由には、まだ日本の慎み深いお国柄がにじみ出ているからではないのかと思う。たくましく強い彼女たちに負けないよう、日本人メンバーにも頑張っていただきたいとつくづく思ってしまった。
誤解なきよう言っておきたいが、別にBNK48が恐いという訳でも、自己中心的だという訳でもない。日本ではあまり抵抗がないことを、お国柄の違う自由なタイ人にやらせることによって生まれる、戸惑い、心の葛藤・吐露なのだ。一つだけ言えることは、この映画を見て、タイ好きなら、そしてタイ人女性好きならBNK48を好きになることは間違いない。そこにいるのは素のタイ人女性たちだから。
今回「BNK48: Girls Don’t Cry」が上演されたのは、第31回東京国際映画祭の「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #05 ラララ♪東南アジア」。上映後、観客の質問にナワポン・タムロンラタナリット監督と、撮影・プロデューサーのパッチャリン・スラワッタナーポーンさんが答えるという時間が設けられた。5年前の監督は少年のようだったが、今回見た監督は、大人の渋さが増していた・・・。
今回の上映についてナワポン監督は「日本に来るべき映画です。ミッションコンプリートした気分です」と話し、パッチャリンさんも「撮影しているときからいつか日本で上映したいと思っていました。実現できました」と嬉しそう。
日本発祥のAKB48グループ。海外の姉妹ユニットがどんな状態なのか、他国より知りたい人は圧倒的に多いだろう。むしろ今回の上映だけではなく、他の映画館でも公開してほしいものだ。
映画のタイトルについて問われるとナワポン監督は
「単なるアイドル映画ではなく、青春映画にしたかった。彼女たちがこの1年でどう成長したのかに興味がありました。彼女たちは僕より年下です。私にはできない経験を、彼女たちはしている。そんな姿を通じ『今の時代の若者』を記録しておきたかった。「Girls Don’t Cry」には『泣かずにしっかりして』『がっかりすることないよ、君は十分頑張っているよ』という2つの意味を込めました。涙には単に落胆だけではなく、嬉しかったり悲しかったりと、さまざまな感情があります。『これが若者の涙の意味だ』という思いもあります」
と話す。
観客の「監督の推しメンは?」というおちゃめな質問には
「ハードなドキュメンタリーで、みんなの兄貴のような気分だった。1人にしぼることは難しい。よく周囲にも言われましたが『26人と一緒にいてハッピーだったでしょ』。って・・・いやいや、映画の構成のことばかり考え、非常に大変だったので、そんな気分になれなかった」
と、既に書かせてもらったように「26人の感情に押しつぶさそう」だった様子を話してくれた。
選抜上位やセンターメンバーよりも、アンダーのメンバーの登場が多かったように思える演出については
「構成上、『泣かずにしっかりして』『がっかりすることないよ、君は十分頑張っているよ』というテーマからアンダーメンバーメインの映画になりましたね」
とのこと。楽曲MVやメディアでの露出が少ないメンバーに脚光が当たるこの作品。タイでは7月ごろ公開された映画だが、この映画でアンダーメンバーの苦しみや、努力を知ったファンも多いのかもしれない。彼女たちのファン獲得に一役かった映画でもあるのではないだろうか。
続編映画撮影の続投オファーは断ったが「数年後、卒業するメンバーもいると思うので、むしろその方々にインタビューすることに興味があります」と監督らしい、新たなBNK48との向き合い方を考えているようだ。
BNK48 ファンの皆ならず、AKB48グループをよく知っている日本のタイ好きの皆さんには、意外な側面からタイについて考え、楽しめる映画だと思う。アイドルファンでなくとも思わず応援したくなる「タイ女性の縮図」のメンバーに会いに、バンコクでライブパフォーマンスを体験してみるのもいいかもしれない。
(TAXT:吉田彩緒莉)
บีเอ็นเคโฟร์ตีเอต: เกิร์ลดอนต์คราย
[監督]
ナワポン・タムロンラタナリット [นวพล ธำรงรัตนฤทธิ์]
[キャス]
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