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取材協力:寿司 十番 匠
日本食ブームの続くタイで注目されているのがお任せの寿司。現在、バンコクとその近郊で100店以上もあり、その数は増え続けています。そんな中、お任せ店として最大級の人気を誇るのが『寿司 十番 匠』です。
こちらで料理長を務めているのが中谷一喜さん(54歳)。中谷さんは岐阜の出身。高校を卒業してから地元の和食店に就職、その後、東京や名古屋の料亭や割烹で修行を続けます。40歳を過ぎた頃、自分の将来に関して閉塞感を覚えるようになりました。
そんな時、タイのホテルの和食店から料理長のオファーが舞い込みます。中谷さん、実は、海外旅行の経験もありませんでした。
「不安はありました。でも、上を目指したい、こんなチャンスは再び巡ってこないだろうということで決断をしました」
オファーから来タイまでたった2か月の期間しかなく、タイ語学校に行く時間もありませんでした。当然、苦労の連続。
「最初、タイ人スタッフとは基本身振り手振りでした。日本語が少し話せるスタッフもいたので彼らに通訳してもらったり」
タイ語で難しいのは発音とイントネーション。教科書や本に書いてあるカタカナ発音をしゃべっても通じない場合が多いのです。そのため、仕事関係のフレーズを前日覚え、それを翌日に使って慣れていったりしました。
「とにかく実践でしたね。良かったのはスタッフたちと良いコミュニケーションが取れていたので、お互いに日本語とタイ語を教え教わりながら仕事ができたことです」
そうこうしながら1年ほどが経つと、自然に、タイ語が理解できるようになったそうです。
その後、同レストランはクローズ。しかし、タイが気に入った中谷さんは残ることにし、現在の店からオファーを受けます。
コロナ前、『寿司 十番 匠』の顧客の9割は日本人でした。しかし、パンデミックによる政府の規制で店内営業はできず、デリバリーに活路を見出すしかありませんでした。
そこで、同店はタイ人マーケットの開拓を目指します。ここで中谷さんは得意のタイ語を活かし、料理動画をアップしていきます。
「本当は私は写真を撮られるのあまり好きじゃないんです(笑)。プライベートの写真とかほとんどないくらいで」
しかし、店を盛り上げるため中谷さんは全力を尽くします。ちなみに動画の台本作りや撮影編集は同店のマーケティングチームが行っています。
努力の甲斐あって、コロナ禍が収束した頃には、店の顧客層は逆転。タイ人客が9割になりました。
当然、料理の内容も顧客のニーズに合わせてチェンジ。タイ人の大好きなパフォーマンス要素の高い物をコースに盛り込むようになりました。
例えば、スモークバブルガンを寿司に活用。もともとカクテルの世界で使われているもので、様々なフレイバーのバブルが割れることで香りがするのです。
「マーケティングチームが“これ料理に使えませんか?”と持って来たんです。しかし、寿司にのせてもカクテルのように水分ではないからバブルは弾けてしまいます。そこで、空中でバブルを作り、それを寿司に落下させるというパフォーマンスを思いついたのです」
ソーシャルメディア好きなタイ人にこれが大ウケ。顧客の多くがパフォーマンスを動画に撮ってフェイスブックなどにアップ。そこからまた人気を呼ぶことになりました。
綿あめを寿司の上にのせ、バナーで炙るというパフォーマンスも人気。穴子など甘いツメのネタに使っています。
『寿司 十番 匠』のOMAKASEは900~6000バーツまで5コース。毎日予約で一杯のため、現在、店舗を3店に拡大しています。
中谷さんの華麗な職人技を見にお店に足を運んでみませんか?
十番グループホームページ:https://www.juban-group.com/
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