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先日タイランドハイパーリンクスで先行でニュースとしてお伝えした通り、2023年10月24日、在京タイ王国大使館で、タイBLドラマのビジネスネットワーキング・イベントが開催されました。(参照 東京・タイ王国大使館でBLネットワーキングイベントが開催)
タイランドハイパーリンクスにもタイBLドラマ出演の俳優さんたちが登場してくれています。そしてタイが好きだけど、タイのドラマは興味がないという方々も、タイのBLドラマが注目を集めていることを「知らない」、という人は少なくなってきたように思います。
え?知らない?
ではこの機会に知っていただきましょう。
このイベントはタイのBLドラマ制作会社10社が、日本の配給会社、配信会社、メディア、イベンターなどに向けてそれぞれの制作会社の企業の特色や、各社がどのようなBLドラマを制作しているのか、2024年に向けてどのようなドラマを制作中であるかなどをプレゼンテーションする場。このことで日本での更なるビジネスパートナーの獲得、BLドラマ・コンテンツの輸出拡大、新たなBLドラマ俳優たちの日本での活躍の場の開拓が目的で行われました。
タイという国の話題や情報を広くお届けしているタイランドハイパーリンクスですが、BLドラマの情報は、コロナ禍から登場するようになってきた、まだ「新しいタイコンテンツ」と言えます。
タイ俳優さんの専門媒体やタイBL専門媒体ではなく、タイが大好きな人が集まるWeb媒体という立ち位置。
そのため、筆者はあくまでタイが大好きな一人の人間として、タイの一つのカルチャーとして、ドラマのネタに偏りすぎず、「俳優さん」たちをタイの人間として、「ドラマ」をタイのコンテンツの一つとして紹介したい、というスタンスを崩すつもりはないものの…。
だが、しかーし(絶叫)!
さすがに基本を抑えて取材させていただくのと、さくっと「流行っている」程度の把握で取材させていただくのでは深みが違うような。あまりにも知らなさすぎるのはインタビューする相手にも失礼なのではないだろうか…。そう、失礼です!
これはいかんと握りこぶしを振り上げていたところ(危ない奴だな)、今回のイベントの招待が。タイの神様は筆者を見捨てなかった…助かった…。
ここ数年に渡るタイBLドラマブーム。一体どんな企業がドラマを制作しているのか、そしてどのような人々がドラマ制作に携わっているのか。
どちらかというと裏方さんの職人技に興味がある筆者。この機会に基本と現状を学ぼうと、在京タイ王国大使館にお伺いしました。
イベントはラーンティップ・ガーンジャナハッタキット臨時代理大使の挨拶でスタート。タイBLドラマのビジネスネットワーキング・イベントに参加したタイの制作会社10社と、招かれた日本の配給会社、配信会社、メディア34社を歓迎してくれました。
タイ王国大使館のイベントホールは、タイ文化交流の場となっていて、タイの商品を日本にPRしたり、タイの文化活動のPRイベントが数多く行われています。
タイ好きとしては、こういったタイを身近に感じられる活動の場を、大使館が積極的に支援する姿勢が嬉しい限り。
ポーニッチ・シラオン国際貿易促進局次長の挨拶では、タイ国内のBLコンテンツの収益は40億円、日本からの収益は14億円と、海外では特に日本市場のマーケットの大きさが際立っていたとの報告が。
それもそのはず。ポーニッチ・シラオン国際貿易促進局次長によれば、タイのBLシリーズは今から数十年前に日本のコミックからタイに持ち込まれたものだというのです。
そこそこいい年齢の筆者「やっぱりそうだったんだ!」と思わず納得してしまいました。
日本のボーイズラブのコミックは当時「やおい」という別称で呼ばれており、今もそう呼んでいる人もいるはず。タイではBLドラマのシリーズを「Yシリーズ(Series Y)」と呼んでいます。それが不思議だったのですが、この「Y」は何を隠そう「やおい」の「Y」。日本のコミックカルチャーとして使われていた名称を、そのまま受け継いだネーミングなのです。
つまりタイのBLドラマは「逆輸入」。
メジャーから同人誌まで様々なジャンルと、細やかなストーリーが作られていた日本のBLコミックの世界をタイがドラマ化し、ディテールにタイの生活や恋模様、タイ独自の世界観が加わり、今にいたっているということ。
光栄にも既に存在自体が日タイ合作のようなものなのですね!日本でウケて当然と言えるでしょう。
今回集結したタイ側の10社の企業は、まだまだこの「Yシリーズ」コンテンツの日本への輸出拡大、日本の関連事業との連携(芸能事務所や音楽事務所、メーカー、放送局、メディアなど)、タイと日本と共同コンテンツにおける協賛の機会を得たいと、熱意を持って来日しています。このタイ側の思いが、どのように受け取られるでしょうか?
今回プレゼンテーションに参加したのは10社。登壇順に
・MCOT
・GMMTV
・HALO productions
・Star Hunter
・Dee Hup House
・Kantana
・9Naa Production
・Tia51
・HOLLYWOOD THAILAND
・Be On Cloud
タイでは、オーディションで事務所関係なくキャストが決まるパターンの映画を除き(製作会社が自社の俳優のみを使う場合は別)、メーカー同志が一堂に会することは難しく、なかなか垣根を超えて集結することが難しかったはず。
事実、これまでも代々木のタイフェスティバルの際は、タイでは一緒のイベントに出ることがない他社メーカーのアーティストに会えることがとてもうれしいと語っていたミュージシャンもいます。
それを考えると、このビジネスネットワーキングの顔ぶれは、かなりレア。
10社の中でも特に目立った企業を3社ピックアップ。
最初のタイBLドラマ制作会社は、タイ旅行中にテレビっ子になってしまう人なら大抵の方は目撃しているこのロゴの企業、MCOTからコンテンツビジネスリーダーのアリッサラー・コンマンさん。
テレビ局、ラジオ、デジタル、パートナーシップを結んでいるSN1 Entertainmentでのアーティストマネジメントなど多岐に渡る側面を持つエンターテイメント企業です。
既にオンラインイベントや、佐賀県で行われたタイフェスティバルや、TATとのタイアップで、タイのアーティストを起用した日本の観光客への動画などを制作しており、日本へのアプローチも積極的。
出た!
タイのBLドラマと言えば、GMMTV。タイ好きなら誰もが知っているタイ最大手のエンターテイメント企業、GMMグラミーの子会社の一つ。名だたる人気シリーズを輩出し、数々の著名俳優が所属するGMMTVです。日本でのGMMTV所属俳優による大規模イベントは毎回話題になります。
なんといってもあの『SOTUS』『2gether』を生み、日本でのBLドラマブームの火付け役になったと言っても過言ではないでしょう。
今回のプレゼンテーターはノッパナッ・チャウィモン氏。テレビドラマ『Still 2gether』、映画『2gether THE MOVIE』の監督を務めたことで知名度も高く、この後行われたパーティーでも常に人に囲まれておりました。
GMMTVといえばテレビ朝日とも契約しており『おっさんずラブ』のタイ版リメイクをタイで制作、放送することが決定しています。
日本では「なぜ吉田鋼太郎さんがこの役を?」など、意外過ぎるキャスティングが人気だっただけに、タイ版の「おっさん」の配役が今から気になるところ。タイでも「えーっ!?」という意外過ぎるキャストに登場願いたいものです。
なお、プレゼンは他社と異なり挨拶と2024年公開予定ドラマの動画のみ。またこの動画も映画の予告編並みによくできているのが、さすがGMMTV。
simple is bestのプレゼンはこれまで築いてきた名作に対する自信がなせる業なのかもしれません。
なんと、タイで初めてYシリーズを制作した企業。日本でもタイBLが好きな人であればご存知『Love Sick』の制作会社です。プレゼンテーターはヨット・ゴーンヒラン社長。
『Big Dragon The Serie』主演のMos PanuwatとBank Mondopさんや、タイランドハイパーリンクスでもリモートインタビューさせていただいたバースことスラデット・ピニワットさんが以前所属。出演作品も制作しています。
今非常に勢いがある制作会社と言っても良いでしょう。
実は今回一番有意義に感じたのは、タイ側のプレゼンを受ける日本の配信会社やテレビ局側からのストレートな意見。
これまでタイ側はファンミーティングと言う形で、直接ファンへのアプローチをしている印象がありました。
当然、大好きな推しのためであれば、多少高額なグッズやチケットであっても「会えるのなら購入する」という方が多いはず。
しかし今回、タイの制作会社がアプローチするのは日本企業。「日本に販路を!」「輸出拡大を!」「協賛してくれるビジネスパートナーを」と意気込んでいるタイ側のプレゼンテーターに、日本の現実を知っていただきたいという愛ある正直な意見に思えました。
タイだけではなく他国の番組や日本のドラマを多数扱っている方々だからこそ、わかることであり、BLだけが日本でウケる訳ではない、BLだけがタイのエンターテイメントではない、という意見も。
ここのパートだけ写真撮影がNGでしたが、リアルな現場の意見としてレポートさせていただきます。
GMM TVと提携し、様々なドラマを放映、イベント等行っているテレビ朝日。
タイドラマの魅力を聞かれると
「役作りをしっかりされている方が多く、役者のポテンシャルの高さに非常に魅力を感じています。」
と答えつつも、
「日本はタイと比較すると経済状況は良くないです。現在、GMMTVや、KANTANAと協力して様々な試みを行っていますが、お互いに経済をまわし続けないとこの関係は長く続けられません。状況を見ながら、一方通行にならないように、話し合いを続けさせていただきたい」
と、ウィンウィンの関係を求めました。
国内のECモールでトップを突っ走る楽天グループの一つ、RAKUTEN TVではタイBLドラマを配信中です。
お得なポイントを貯めるために、日本国民の大部分がグループ会社のサービスのいずれか、もしくは全てを利用しており、そこに集まるビッグデータから様々な情報提供ができる強みがあります。
金さんは自らもBLファンで、制作している各企業に敬意を表しつつも、リアルな数字で日本市場におけるタイBLドラマの置かれている環境について、説明してくれました。
「日本のタイBLブームは『TharnType』と『2gether』の配信が始まった2020年から。2022年の視聴者数は前年度の40倍近くに跳ね上がりました。
爆発的に増えたユーザー自体は2023年現在も維持ができているので、一見タイBLブームが継続しているように見えるのですが、その反面、2021年、2022年にかけて台湾、韓国のBLドラマ配信が増え、タイBLドラマの配信数は増えず、一つのタイトルのユーザーは減少していることになります。
最初はタイのBLドラマはコストパフォーマンスが良いということで、配信を始めましたが、今は高額な買い物になっており、バイヤーとしては問題です。
先ほどテレビ朝日さんもおっしゃっていたように、お互いの状況を理解しないと長い関係性が築けません」
日本企業側の少し厳しい意見が聞けたところで、今後日本のメディアがタイのBLドラマ制作会社に期待することとは何なのでしょうか?
テレビ朝日の水髙さんは
「タイのクリエイターの皆さんに理解していただきたいのは、日本でBLをきっかけにタイのドラマが流行ったのは事実です。ただ、日本のファンの皆さんはBLというジャンルだけに限らず、タイのエンターテイメント全体に期待しています。
最近のタイのBLドラマを見ていると、露出の多いものが増えてきています。それを否定するわけではないのですが、さきほどお話した役者の演技力に支えられて、スト―リーに説得力が出ると思います。ストーリーの良さがタイドラマの魅力であると思います。ドラマのストーリーの内容の濃さに期待しています。」
と語りました。
RAKUTEN TVの金さんは
「日本のBL市場は50万人以上と言われています。しかしBL市場の中でも、まだまだタイのBLのファンは少ないと思っています。ただ、それだけ拡大する可能性があるということです。
BLが好きな方は、アニメ、小説、マンガの世界が好きな方が多いので、今も行われている日本の作品のリメイクを増やしていくことで、新たなファンが生まれると考えられます。」
と指摘。
タイのBLドラマの主題歌などから、音楽コンテンツを制作しているユニバーサル ミュージックの小野さんは
「サマーソニックにタイのミュージシャンが出演するようになった今、ドラマとミュージシャンとのコラボレーションをもっと取り入れることで、音楽のファンも増えるのでは?」
と、ドラマだけではないタイミュージックの日本でのブームに期待を寄せました。
ラストはタイBL俳優さんたちによるパフォーマンス。
既に日本のタイBLファンにも広く知られているStar Hunter所属のMos PanuwatとBank Mondopさんを筆頭に、ドラマ俳優たちが歌を披露してくれました。
まだまだ知られていない俳優陣もいて、初々しさがまぶしい~。
KANTANAからはYen YanadatさんとPly Chanakanさん
Tia51からはPutter PhubaseさんとCheetah Chonphipatさん
最後は9Naa ProductionからP Ekkapopさん、Pan Jirachotさん、Plai Chattrinさん、Beboy Nanthakornさん、Thunder Wongsathonさん。
P Ekkapopさんは日本の短大を卒業しているとのことで、日本語がとても上手。今後の注目株かもしれません。
全体を通して、このイベントはタイ側と日本側との感覚や温度差をお互いがリアルに把握する良い機会になったのではないかと思います。
コロナ禍のお家時間の急増で、ストリーミング配信の視聴が爆発的に増えたことから、タイのBLドラマが日本をはじめ世界的に注目を集めました。ボーダレスや性の多様性に激しく動いた時期とも重なり、時代にもマッチしていたのでしょう。
また、単にBLドラマだから、というだけではなく、これまではあまり知られていなかったタイ人俳優たちの魅力に気づいた方が急増。
個人的にこのブームの凄さは、「メディアが戦略的にしかけるブーム」も多い中で、ユーザーの反響を見て企業が動いたという、どちらかというとファン主導のムーブメントだったことだと感じています。
行動制限が明け、日本国内のアーティストのコンサートチケットが値上がりしましたが、タイBL俳優のファンミーティングはそれの数倍上を行くかなりの高額。
2023年5月のタイフェスティバルの際も、こういったギャップが話題に上りました。
日本の経済状況は厳しく、それは一般層が消費できる金額の上限がそこまで高くないことを意味します。それでも成立していたのは、熱心なファンの方相手のビジネスだったから。
やっと火が付いたこの市場を、さらに拡大するには、このイベントの趣旨にあるように日本のエンターテイメント企業と組むべき。しかし、配信会社やバイヤー、日本の芸能プロダクションは「利益が出る」と手ごたえを感じなければ動きません。このイベントでのテレビ朝日やRAKUTEN TVの方の厳しい意見は、こういった問題定義も含まれています。
日本カルチャーが好きなタイ人の友達数人から、こんな声を聞きました。
「日本のドラマは面白い。タイのドラマにはない繊細さがあって、シナリオがとても良くできている」日本人はドラマのストーリーにこだわります。たとえば恋愛ドラマなら最終話でやっと告白する、というようなストーリーも多く、毎話揺れ動く心理描写にわくわくしたり、相手役の期待させるような言動に一喜一憂するのが、当たり前の世界。
インタビュー用にあるBLドラマを見た際には「ええ?2話目に脱いでいる(笑)!」と衝撃を受けたこともあり、急激な展開や、交際段階のスピードがジェットコースター並で、驚かされることもあります。
それを「面白い!」と捉えるか「それしかないのか?」と捉えるのかはあくまで個人の感想。
ただ、日本の一般層向けに作られた日本のBLドラマは、恋愛表現に肌を見せすぎず『おっさんずラブ』のようなドタバタコメディ要素があるものや、『きのう何食べた?』のような、しみじみと同性同士のカップルも素敵だな、と思わせるものなど、恋愛表現部分は「心」の表現で見せています。
熱心なファンだけにではなく、日本市場の一般層に食い込むには、もう少しだけ歩み寄りが必要なのかもしれませんね。
そうはいってもタイは国際的に映画の評価が高く、優れた作品が多いのも事実。シナリオや演出、美術など、他国に負けない才能を持つクリエイターが存在します。そういった土壌からBLドラマ作品であっても歩み寄ることができないはずがない!
BLドラマがきっかけとなり、タイのエンターテイメント全般の認知度向上を、期待せずにはいられません。
また、BLドラマからブライト(Bright Vachirawit Chivaaree)や、ウィン(Win Metawin OPAS-iamkajorn)のような大スターが生まれたわけですから、次に続く俳優も出てくるはず。
タイの良さと日本の良さ、そしてお互いの利益になる素晴らしい関係が築けるよう、今後もこういった意見交換の場を作っていってほしいものです。
…個人的にはタイの『おっさんずラブ』、日本よりさらにテンション高そうで楽しみ。
【取材・文:吉田彩緒莉(Saori Yoshida/Interview・text)】
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