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サメット島のナダン埠頭の先に不思議な像があります。胸を半分隠した巨大な女夜叉が誰かを呼んでいるかのように手を伸ばしています。
この巨人は誰で、誰を呼んでいるのでしょうか?
その正体はタイで最も偉大な詩人と呼ばれているスントーン・プー(1796~1855年)の「アパイマニー王子物語(Phra Aphai Mani พระอภัยมณี)」の中にあります。
3万行に及ぶ長編詩の中で、今回の像に関する部分をかいつまんで説明すると次のようになります。
昔、昔のこと。ラッタナー国の王様は2人の王子たちを自分の部屋へ呼びました。
「私の後を次ぐのはお前たちだが、まだ修行が足りない。王たる者に必要な術を旅に出て学んできなさい」と王様は王子たちに命じました。
数年が経ち、2人の王子が宮廷に戻って来ました。1人の王子は国を守ろうと棒術を修行して身につけていました。
「う~ん、棒術か・・・。アパイマニー王子、お前はどうだ?」と王様はアパイマニー王子に聞きました。
すると、アパイマニー王子はおずおずと笛を出しました。
「笛を学んだだと?何ということだ、お前たちは!棒や笛などくだらないものを学びおって!」と王様は怒りました。
実はアパイマニー王子の学んだのは人々を魅了する魔法の笛の技でした。しかし、王様はそれを聞かず、王子たちを国から追放します。
アパイマニー王子は再び旅に出ることになりました。そして、海底の世界へと導かれ、美しい女性と出会います。しかし、この女性、実は海底の世界の巨人女夜叉であるピースアサムット(ผีเสื้อสมุทร)が変身した存在でした。
アパイマニー王子とその笛に惹かれたピースアサムットは、相手を虜にし、海底の世界で一緒に暮らさせようとしたのです。
しかし、アパイマニー王子はその嘘を見破り、人魚の手を借りて、地上へと戻りサメット島で隠れて暮らし始めます。そして恋に落ちます。
ナダン埠頭の像は「王子、私の元に戻ってきて!」とアパイマニー王子を慕って海底から出来てたピースアサムットなのです。そう知ると、怒ったような、また悲しいようなこの像の表情もよく理解できますね。
同じサメット島のサイケオビーチにはアパイマニー王子が笛を吹き、その調べに人魚が聴き惚れている姿を描写した像、また人魚が王子の息子を抱える像があります。
3つの像はアパイマニー王子を巡る恋を描いた物なのです。
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