2012年12月13日 掲載
12月9日、日曜日。夜10時頃、なかなか寝ない子供達との格闘中に携帯電話が鳴った。祐介からの着信表示、忘れていた…今日はDivision 1への昇格を賭けたChampions Leagueの最終日だった。昇格が厳しい状況である事を知っていたのだが、不思議と「あぁ、昇格したな」と直感した…。
佐藤 祐介(30歳)、183cm75kgのセンターバック。日本ではSC鳥取やロアッソ熊本でプレー、昨年はChainat FCでTPL昇格を味わうも契約延長を勝ち取れず。今年は半年間浪人したあと後期からRayong Unitedに加入。はっきり言って苦労人であるが、ここからの活躍は第59回のコラムで紹介済みだ。その後のChampions Leagueではまずまずの出だしであったのだが、下位のチームに対して勝点を取りこぼす戦いが続き、残り3試合の時点で、既に自力昇格の権利が消滅していた。
苦しい状況下でチームからキャプテンマークを託された祐介。外からみていて”ちょっと(責任を)自分独りで背負い込み過ぎちゃってるな”と俺は感じていた。昇格を期待されて補強された選手にかかる重圧は言葉では言い表せない程重いし辛い。普段から何をやっていてもサッカーの事が頭に浮かんでしまう。精神的にも肉体的にも余裕なくギリギリの状態に追い込まれてしまうんだよね。何度か日本で昇格に携わった俺は「もうあんな想いは2度としたくない!!」と今でも思うんだけど、そこで得る勝利の味は最高なんて言葉じゃ足りないもの。(戦う者にとって)これ以上無い位の舞台なのかもしれない。だから俺も戦い続けられたのかな。祐介を見ていてそう思った。
前節で”望みを繋ぐ”ロスタイム決勝弾を放った祐介。外国人選手には特にスーパーな活躍を期待されるタイサッカー。ここでチームを救うゴールを挙げ続ける祐介は、今回のゴールで「昇格いけるんじゃないか」と確信したという。試合終了後、チームのエンブレムを叩いて「まだ諦めるな!!」というメッセージをチームに関わる全ての人達に向けて、自然に発していたという。
しかし、最終節を迎えた時点で昇格圏内の2位のチームとの勝点差は2。2位のチームが負けて、Rayong Unitedが勝つしか道は無いという相変わらずの苦しい状況ではあったのだが…。アウェーでの最終戦は1-0で試合終了の笛を聞いた。そして2位チーム敗退の情報…全ての戦いを終えた祐介は歓喜より先に責任の重圧から開放されホッとしたのではないだろうか。
電話口の祐介は喜びを独り噛み締めているような話し方をしていた。「このクラブが今の僕のサッカーの全てです」…こんな事がサラッと言えてしまう祐介、今までのサッカー人生で一番劣悪な環境が、彼をここまで大人にしたのかな。祐介自身、自分の成長を実感しているようだ。今度ゆっくり食事に行く約束をしたんだけど、その時祐介はどんなオーラを纏って現れるのか、今から楽しみである。
最後に…本当におめでとう、とりあえずゆっくり身体を休めてなっ!!
伊藤琢矢(いとたく)
アマチュアに拘りプレーを続けた20代。33歳でのプロ契約を期にJリーガーを目指す事に。大宮・岡山・北九州とJリーグ昇格に携わり、自身は36歳でJのピッチに立った。2011年よりタイに活躍の場を移した「夢追人」。
いとたくブログ『夢追人』
Regista in Thailand