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2017年3月25日(土)より日本で公開となった、マレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの最高傑作で、長編映画としての遺作である『タレンタイム〜優しい歌』。前夜祭と初日25日・翌26日に行われた出演女優アディバ・ノールさんの舞台挨拶およびQ&Aのレポートが届きました。
6本の長編作を遺して2009年に亡くなったマレーシアの女性監督ヤスミン・アフマド。その伝説的な遺作『タレンタイム~優しい歌』がマレーシア公開から8年の時を経て日本で初めて劇場公開されたのを記念して初来日したアディバ・ノールさん。ヤスミン映画6作品のうち、4作品『細い目』(04)『グブラ』(05)『ムクシン』(06)『タレンタイム~優しい歌』(09)に脇役ながら重要な役柄で出演。監督との交流も深かった。ヤスミン映画の常連女優であり、国民的な歌手としても活躍するアディバさんが前夜祭と初日&2日目の全上映回で舞台挨拶とQ&Aを行い、公開を待ちわびていたたくさんの映画ファンに現場でのエピソードや監督の人となりを語った。前夜祭には成田から直行したアディバさん、来日早々というのに初日には、
「コンニチワ。ワタシハ、アディバ・ノールデス。マレーシアカラキマシタ。マダ、ドクシンデス(笑)」。
と覚えたばかりの日本語で挨拶するアディバさん。映画の役柄そのまま、ユーモアあふれた挨拶に会場も一気に和む。ちなみに「まだ独身です」のフレーズは、お客様との距離を縮めるのにいい言葉はないかしらというアディバさんのリクエストでスタッフが教えた言葉。アディバさんも大いに気に入り、毎回この挨拶でトークをスタートした。
「ヤスミンと出会った頃、私はさほど有名ではない歌手でした。この世界に入る前は英語の教師をしていたんですが、子供の頃から歌うことが好きで、友人にも薦められ色々なコンクールに出ました。でも良いところまで残っても優勝するのはセクシーでスリムな女の子ばかり。ようやくあるコンクールで優勝し、それをきっかけにショウビズの世界に入りました。当初は顔を出す仕事は少なく、例えばCMの歌の吹き替えなどをしていました。そしてあるとき、当時、大手の広告代理店レオバーネットでクリエイティブ・ディレクターをしていたヤスミン監督から、自分のコマーシャルに出演して欲しいと依頼がありました。2002年のサッカー・ワールドカップをとりあげたものでしたが、私は最初信じられなくて“えっ!?私なんかを出していいのですか”と聞いたほどです。しかしそのCMは評判になり、しばらくすると、今度はヤスミンが“私の映画に出演しませんか?”と声をかけてくれたんです。演技を学んだこともないし、自分の顔が大きなスクリーンに出るなんて、とても無理だと思いましたが、ヤスミンは“やってみなきゃわからないじゃない”、“あなたの顔を思い浮かべながら書いた役なのよ”と言うのです。それが『細い目』でした」。
『細い目』でアディバさんが演じたのは、主人公オーキッドの家のメイドのヤムさん。そこから彼女は『グブラ』『ムクシン』でもヤムというキャラクターを演じたが、このキャラクターはヤスミン監督の家にいた実在のメイドをモデルにしていたと言う。
「ヤムさんはメイドですが、堂々としていて家のボスのように振る舞い、女王様のようなキャラクター。マレーシアにそういうメイドがたくさんいるわけではありません(笑)。奴隷より1つレベルが上くらい、というメイドさんもいます。でもヤスミンの家庭はご両親も素晴らしい方で、メイドだからといって下にみるようなことはなかったんです」。
初めての撮影現場ではこんな思い出も。
「初めての現場だし、自分の容姿に自信もなかったですし、バッチリ濃いメイクをしていったんです。そうしたらヤスミンに“メイクは全てとって”と言われました。自分の素顔が銀幕に映るなんてと怖かったんですが、幸いにして私を見て悪夢にうなされた人は誰もいませんでした(笑)。この経験は私の人生のターニングポイントになりましたね。ヤスミンとの仕事で、私はありのままの自分に自信を持つことを教えてもらったんです」。
ヤスミン映画の魅力、撮影現場での演出スタイルについては、
「ヤスミンは何より“ストーリーを語ること”を大事にした人でした。最初の頃は、マレーシアの批評家の中にも“なんだ、カメラはただ左から右に普通に撮っているだけじゃないか”と批判した人がいましたが、彼女はそんな批判は気にしませんでした」。
「台本は事前に渡されますが、現場で変えることも良くありました。彼女は俳優が実際に持っているものを役に取り込むと言われますが、それも“あなたの家族は?どんな経験したの?”などとインタビューする訳ではないんです。彼女は撮影中に俳優やスタッフとお喋りをするのが好きで楽しく会話しているうちに何かを見つけて、そこで発見したことを劇中のキャラクターに取り込んでいくのです」。
『タレンタイム〜優しい歌』でアディバさんが気に入っているシーンは?と聞かれると、
「中国系の少年カーホウが、お父さんに試験の結果を見せるシーンがとても気に入っています。なぜかというと、カーホウの父親役をやった人は『細い目』でギャングの役をやった人ですが、実は本物の元ヤクザなんです。カーホウの方は映画初出演の男の子。ヤスミンは、父親役の人が元ヤクザでどんなに怖い人かをカーホウ役の子に話して彼をビビリあがらせました(爆笑)。そしてあの、彼がこわごわとお父さんに答案用紙を見せるシーンを撮ったんです。一言加えると、父親役の人はもちろん足は洗っていて今はプロの写真家として活躍しています(笑)」。
そしてもう一つ、現場で印象的だったことをあげた。
「最後の方のシーンで、2人の少年たちがパフォーマンスする場面がありますが、あのときは、演じている本人たちも見ている私たちも感極まって泣いてしまって、その後、まだ撮影が残っていたんですが、落ち着くのに2時間もかかりました。ヤスミンは2時間そのままにしておいてくれました。感情(エモーション)を揺り動かすことに長けた人だったので、悲しいときは悲しく、楽しいときは楽しく、現場でもエモーションを大事にする監督でした」。
初日の最終回では、アディバさん本人の希望で、急遽、観客とともにスクリーンで映画を鑑賞。マレーシアで公開された2009年以来、初めてスクリーンで映画を見たアディバさんはヤスミン監督とともに過ごした時間がよみがえったようで、胸がいっぱいと言う表情。感極まって涙を浮かべながら、ヤスミン監督が亡くなった日の知られざるエピソードを語った。
「ヤスミンが倒れたと聞いて、私たちも病院に行き、そこで夜通し過ごしました。監督のご両親はランカウイ島にいました。というのも、ヤスミンがご両親に“休日を楽しんで”とプレゼントしたんですね。ご両親が急いでクアラルンプールに戻ってきたとき、すでにヤスミンは昏睡状態でした。これはヤスミンのご兄弟から聞いた話ですが、とくにお母様のショックが激しく、非常に衰弱してしまい、お母様も入院してしまったそうです。ヤスミンがいる病棟と北と南、反対側の病棟に入院したそうですが、ヤスミンは昏睡状態が続き、ついに医師が“もうなす術がないので生命維持装置を外してもいいでしょうか”と尋ね、ご兄弟は“母に許可を得てきます”とお母様のところに行ったんですね。そしてお母様が維持装置を外しても良いと許可をした瞬間、離れた場所にいるにも関わらず、まさにそのタイミングでヤスミンは息を引き取りました。つまりヤスミンは、誰にも生命維持装置の電源を切らせることはしなかったんです。まるで、その許可を得たことを知ったかのように自分で旅立っていったのです」。
ヤスミンの優しさと強さを現すかのような、この感動的なエピソードに観客も涙。アディバさんはこう締めくくった。
「日本に来て、私が思っていたよりも、ヤスミンがいかに大きなものを皆さんに遺したかを知りました。皆さんは、ヤスミンを直接ご存じだったわけではないのに、映画を通してヤスミンを愛してくださっています。その皆さんとここでヤスミンの話をし、彼女のおかげで皆さんに会えました。なんと素晴らしいことでしょう。今はいろんなことが頭をよぎって、きちんとお話できなくてごめんなさい」。
『タレンタイム~優しい歌』、8年越しの記念すべき公開は、映画の感動とともに、アディバさんのお話の感動も忘れられない記念すべき初日イベントとなった。
*これまでの資料では「アディバ・ヌール」と表記していましたが、ご本人に確認した発音に忠実な表記として「アディバ・ノール」を採用しています。
Talentime
2009/カラー/115 分/マレー語・タミル語・英語・広東語・北京語
[監督・脚本]
ヤスミン・アフマド
[撮影]
キョン・ロウ [音楽]
ピート・テオ
[出演]
パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか
[配給]
ムヴィオラ
[公式サイト]
http://moviola.jp/talentime
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