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タイ最大のエンターテイメント企業、GMMグラミー傘下のレーベル「Gene Lab」にはTilly Birds・Three Man Down・TaitosmitH・COCKTAILなど、ジャンルは異なるがタイで屈指の人気を誇るとがったバンドやアーティストが集まる。
このレーベルはタイの音楽シーンに変化を起こすため、バンド「COCKTAIL」のホーカリスト、Ohm氏がオーナーを務めるレーベルなのだそう(GT後述参照)。
「Lab」のネーミングは伊達ではないと思える、個性が集まるレーベルの中で、ひときわ異彩を放つ存在が「ADORA」。タイであえて日本語のJ-ROCKで勝負するバンドだ。
彼らは2024年5月、タイを代表するトップアーティストが集結したタイフェスティバル東京に登場。会場でライブを見た人から「迫力あるパフォーマンスに圧倒された」という感想が多く聞かれた。
実は我々も圧倒されてしまった。
10年間タイフェスティバルの取材をさせていただいている我らだが、一度に取材できるアーティストの人数や、制作には諸事情で限界があり、泣く泣く取材を諦めたアーティストもいる。
そのアーティストこそ「ADORA」だったのだ。
あれから1年越しの「ADORAに取材したい!」と言う願いを叶えるため、我らはバンコクのど真ん中に集まった。
2025年早々「ADORA」はLDHのPSYCHIC FEVERとコラボ。今年はいきなり注目を浴びた形となる。さらに2025年3月11日にはNew Single「Betrayal」をリリースしたのだが、これまでのADORAとは少し異なる世界観で、手に汗握るダークで攻撃的な熱い曲。これまでの最新曲だった『春風の中で』の「春風」を吹っ飛ばしそうな凄まじい曲だ。
奇しくも「ADORA」がデビューし、活動を続けるこの2年間は、SUMMER SONICの日タイ両国開催や、LDHがGMMと契約を結ぶなど、日・タイの音楽交流が激しさを増した頃と重なり、彼らの果たす役割は今、非常に重要になっている。
しかし「ADORA」はなぜタイで日本語歌詞の楽曲をリリースし続けるのだろう。
フロントマンであり「ADORA」のサウンド、歌詞を作り上げるGTを直撃した。
--去年のタイフェスティバルから不思議で仕方がなかったんですけれど、なぜそんなに日本語が上手いのか教えてください。
GT:いや、僕、日本語はそんなにわからないですよ(笑)。上手くはないと思うんですよね。
--言葉もそうですけど、特に発音が自然です。ミュージシャンだけに耳が良いんですかね。
GT:もし、上手く聞こえるなら、日本に行って、日本語学校に通って勉強しただけです。でも半年くらいですよ。
僕はマヒドン高校(College of Music, Mahidol University)に通っていたんですけど、あまり学校に行っていなくて、退学したんですよね。
それでタイのGED(高校卒業と同等の学力を証明する試験)のようなテストを受けて、16歳の時には高校を卒業していました。日本の大学に行きたいと思っていたんです。
--へえ!じゃあ日本の大学に通ったんですね?
GT:いえ。違います(笑)。日本で音楽の専門学校に行こうと思ったんですけど、急にアメリカに行きたくなって、アメリカに行きました。
だから日本に住んでいたのは、少しだけ。タイと日本で生活していたのではなく、メインはタイとアメリカなんです。
--そういえばinstagramだったかな?Linkin Parkのコピーしてる動画が流れてきたんですけど「英語でもここまで自然に歌えるんだなー」と、感心していました。日本よりアメリカの方が長いんですね。納得です。
GT:ありがとうございます。
--ミュージシャンになりたいと意識したのは、日本で日本語学校に通っている時ですか?
GT:僕は今25歳なんですけど、12歳でバンドを組みました。12歳の時にバンドがメインのタイの映画を見たんです。
それで「バンドやってみたいなあ」って思ったんです。
でも僕の通っていた学校には、日本語で言うと「軽音部」みたいな部活がなかったので、自分でお金を出して、楽器を全部買いました。
--凄い行動力!
GT:ベース、ドラム、ギター全部揃えて、友達に「バンドやろうよ!」って声をかけました。
--でもそれって、もの凄い金額になりませんか?12歳の少年が買えるものではないですよね。アルバイトをしたとか?
GT: 働いていないです。そんなに高くないですよ。お父さんにお金くださいって…。
--お父さん(爆笑)。そんなに高くないって、お父さんのお金ですから(笑)。
GT:(笑)。
--それはさておき(笑)、日本に行こうと思ったきっかけはなんだったんですか?
GT:僕は12歳の時から日本のバンドに憧れていたんです。 ONE OK ROCKと、アニメのバンドなんですけど「涼宮ハルヒの憂鬱」に出て来るバンド。「god knows..」という曲が凄くかっこよくて。
--おお!じゃあ、日本でもバンド活動は続けていたとか?
GT:僕はどこに住んでいてもバンドだけは続けていました。
日本の日本語学校に通っていたんですけど、あまり学校には興味がなくて(笑)。ある日、代々木公園で演奏をしている日本人を見かけたんですけど、思わず声をかけて、一緒に演奏させてもらったんです。それがきっかけで、そのグループと一緒にバンドを組むことになりました。
--アメリカに行ってからはどんな活動を?
GT:日本人の友達を集めて「みんなでストリートライブをやろう!」って声をかけて、活動していました(笑)。
--大使館でのパーティーのリハーサルを聴いて、あまりにも曲が良かったのでお声がけしたんですけど、king Gnuが好きで影響を受けたっていうお話を聞かせていただきましたよね。確かあの時は『不思議な夢』をギター1本で披露してくれて。
歌詞の世界感も曲の感じもKing Gnuに影響を受けたと言うのはすごくわかりました。でも、ADORA独自の良さがありますよね。
GT:会場で声をかけられたこと、覚えています。実はKing Gnuを知ったのはアメリカでなんです。『白日』という曲を聴いてとても感動しました。King Gnuは凄く影響を受けたバンドですね。
--タイの大御所バンドはX-Japanに影響を受けたJ-ROCKからスタートしたバンドが多いですよね。だからKing Gnuに影響を受けたJ-ROCKが存在して、今後発展していくのは自然な気がします。でも、さすがに他のバンドは歌詞までは日本語ではないじゃないですか。
なぜADORAは歌詞まで日本語にこだわるんですか?
GT:僕はバンドやるなら日本語じゃないとイヤです。子供の頃からずっと日本語の曲に挑戦してきましたし、諦めるとそこで終わってしまうじゃないですか。だから絶対に諦めたくなかったんですよね。
当時はタイで日本語のバンドをやるという拘りもなかったので、実は日本のソニーミュージックのオーディションを受けたことがありました。でもダメだったんです。
それでも諦めずに続けました。
--タイでライブをしていると思うんですけど、ADORAのファンはもちろん日本語で一緒に歌うんですよね。
GT:日本語で歌います!
--今後タイ語の曲の計画はあるんでしょうか?
GT:それはないですね。もし出すとしても英語かフランス語かな?
元々ADORAに加入した時から色々な国の言語の歌詞を作りたいとは言っていたんですけど、僕はタイ語の歌詞の曲を作ることができないと思います。
--それはなぜだろう?
GT:タイ人は歌詞の意味を大切にしています。時々、曲のメロディやアレンジを重視したくても、タイ語の歌詞は省略することが難しい。英語や日本語は、メロディ重視で一部を省略してもイメージでわかったり、意味が解らない言葉も曲に合わせて使える。言葉自体をフィーリングで使う言葉遊び的な表現もできますよね。
僕は言語をアートみたいに使って歌詞を作りたいんです。
--ADORAもそうですけど、Gene Labのアーティストは凄いですよね。Tilly Birdsは英語の曲も多いし、逆にTaitosmitHはタイの社会的な話をしっかりとタイ語の歌詞で歌っていて、Three man downはタイの若い人に大人気だし、COCKTAILもタイで知らない人はいないでしょう?確かASIA7っていう伝統的な楽器を取り入れたユニットも所属してますよね。さらにADORAは日本語。
個性重視、音楽性重視のバンドが多くて、リリースをSNSを見ていても楽しみです。
--ADORAはGene Labに所属したわけなんですが、GMM傘下のレーベルって沢山あるじゃないですか。Gene Labは日本でもタイ好きの間では知られているバンドも所属しているし、タイ在住の日本人でもGene Labのアーティストが好きっていう方もいるので、デビューのきっかけに興味がある人も多いと思います。教えていただきたいですねー。
GT:そうですよね。うーん、これは今思い出しても不思議な話なんですけど、バンコクの居酒屋みたいなところに飲みに行った時、偶然Gene Labの誰かと会ったみたいなんです。
--「誰かと会ったみたい」ってそんな大事な瞬間を(笑)?
GT:実は僕、凄く酔っぱらっていて、詳しく覚えていないんですよ(笑)。最初に友達がGene Labのオーナーと話していたみたいで、その後、友達がGene Labのオーナーに「僕の友達、日本語のバンドやってます!」みたいに言ってくれたんだと思うんですけど。
確かネームカードを渡して「日本語のバンドやってます!」って言ったと思います。
オーナーは「え?なぜ日本語で歌ってるの?」って聞いてきて「僕は日本語が好きですから」って答えたかな?それくらいの会話しか記憶がなくて。
--なぜ日本語?はADORAを知ったら真っ先に聞きたいひと言ですよね。
GT:2日くらいして、忘れていた僕にいきなり電話がかかってきたんです。「ADORAに興味があります。ぜひ来てください。」って呼び出されてました。
--そんなことあるんですか?なんてラッキーな人。諦めたくないっていう思いは、もう 最初から決まっていたことだから、抗えなかったのかもしれないですよね。
GT:いや、本当にそうです。自分でも凄く運が良いなと思って。
--それは何年前ですか?
GT:2年くらい前。
--丁度、日本とタイの音楽の交流が盛んになったころですね。 タイフェスティバルだけではなく、NIPPON HAKU BANGKOKやJapan Expo Thailandにも出演できるようになったことを考えると、Gene Labとしても「日本とのアーティスト交流に役立ってくれそう!」って思ったのかも!
GT:そうなんですよね。だから不思議な縁だと思っているんです。こんなに日本とタイのイベントが活発化しなかったら、デビューできていなかったと思うんですよ。
実は僕のチューレン(タイ人は名前が長いので愛称をつけて日常的に使う)の「GT」は日本の友達が付けてくれた名前です。小さい頃から「ギター」って言うチューレンだったんですけど、バンドのリハーサルの時に友達が「ギター持ってきて!」って言ったから、自分の事かと思って(笑)「はい。何を持って行きますか?」って立ち上がったら「お前は今日からGTだ」って言われて。
--ギターと言うチューレンだったこと自体が将来を暗示していたみたいですね。
--タイフェスティバル東京2024に出演した時、MCで「このタイフェスティバルのステージに立つことが夢だった」っておっしゃっていましたよね?いつ頃からの夢だったんですか?
GT:日本の日本語学校に通っていた16歳の時に、代々木公園のタイフェスティバルを見に行ったんです。もうその時から僕はずっとこのステージに立ちたいって思っていました。
--もうステージに立つ自分が見えていたのかもしれないですね。
GT:そうかも(笑)。不思議な気持ちでしたよ。何ていうか…僕は日本人じゃないでしょう?でも、タイ人の立場で日本語で歌って、夢だったステージに立って日本人に曲を伝える日が来るなんて、本当に嬉しかったです。それに、その時、なんていうか…「今日、ついにその日が来た」っていう感覚になりました。
--2024年はゲストが豪華で、THE TOYSや、BOWKYLION、同じレーベルのTilly Birdsや、GMM TVのoffgunさん、TayNewさんと、どのジャンルでもタイを代表する人たちと一緒に出演しましたよね。その中の一組に数えられたわけですから、凄いことですよ。
GT:僕たちはずっと「日本のタイフェスティバルに出演したい!」って言い続けていました。Gene Labから「出る?」って聞かれて「出る!」って即答でした。
多分、同じレーベルのTilly Birdsが出演するから、僕たちも出演できたんだと思うんですけど(笑)、それでも嬉しかったです。
--タイフェスティバルの在京タイ大使館のパーティーで、リハーサルをしている時間にホールに入ったんですけど、GTさん、他の出演者やスタッフがフォーマルな格好している中で、ジャージだったじゃないですか。
GT:ああ(爆笑)!
--だから最初に「ADORAのスタッフの人、歌うまいな」って思って見ていて、資料確認したら、ボーカルじゃん!みたいな感じでした(笑)。場所を問わずスポーツ的なストリート系ファッションは多いんですか。
GT:…(笑)。大体いつもあんなスタイルです。あの日は「お前、ひとりで行ってきて」ってギターのHiroshiさんに言われて、一人で行きました(笑)
--ええ(笑)そうなんですか?本番では打って変わって衣装が素晴らしかったです。
GT:ありがとうございます。自分たちでもアイディアを出して、スタイリストさんやタイのデザイナーに入ってもらって作ったんです。僕は人間の身体の一部をデザインに取り入れることが好きなので(手のTATOOを見せてくれる)そういうモチーフを入れました。
--メガホンのパフォーマンスも良いですよね。タイのアーティストでは珍しいんじゃないですか?
GT:日本ではYOASOBI、King Gnuとか他にも有名なアーティストが取り入れていますけど、そうですね。まだタイではそんなに見ないですね。
--タイフェスティバルに出演してから、日本のファンがライブを見に来たり、ファンが増えたような変化はありましたか?先日はJapan Expo Thailandにも出演してましたよね。
GT:反応が良くてびっくりしましたね。日本語で歌うタイのバンドを真剣に聴いてくれるなんて思ってもみませんでしたし、うれしいですし、変な感じ(笑)。
Japan Expo Thailandには7年前かな?アニメソングのカバーで出演したことがあるんですよ。
--アニソン歌うGTさん…見たかった(笑)。
--タイフェスティバル出演でADORAのファンも日本にいると思うんですが、来日の予定は?
GT:日本で公演したいとはずっと言っています。でも計画はまだないですね。オーガナイザーのような立場の人が呼んでくれる環境があれば行けるんですけど、それもありません。
--なるほど。
--ADORAと言うバンド名はどんな思いを込めて付けたんでしょう。
GT:ギターのHiroshiさんが付けたんじゃないかな?僕は最後に入ったメンバーなんですよ。
--えっ?そうだったんですか?フロントマンだからてっきり最初からいたのかと思っていました。
GT:違います。Hiroshiさんは、日タイハーフなんです。でも日本語が少ししか話せない(笑)。逆に僕が一番日本語が話せる人です。
Hiroshiさんと、ベースのTarさんが最初からいたメンバーで、大学からの友達なんですよ。
タイフェスティバル東京2024出演時。向かって左からHiroshi・Nam・GT・Tar
-- Tarさんと言えば、マスクが凄く気になります。マスクはファッションなんでしょうか。
GT:2年前かな?ミュージックビデオを撮影している時に、プロデューサーさんが「マスクした方がかっこいいな!」って言って、多分その時からずっとつけてます。
それとTarさんはとてもシャイなんですよ。話したくなくて、マスクをしているのかもしれない。
LINEのメッセージも送ってこないです(笑)。
--え(爆笑)?
GT:ちょっとキャラクター的に面白い人なんですよ(笑)。
--逆にマスクで目立っちゃっている気がします(笑)。もう一人のドラムの方も先輩なんですか?
GT:ドラムのNamさんは、サイアムのフェスティバルから加入したのかな?どちらにしても僕が最後に加入しました
--え?待ってください。日本語に拘っているのは、GTさんですよね?
「ADORAは日本語の歌詞の曲をやりましょう」と提案したのは、一番後に加入したGTさんっていうことになりますか?
GT:「僕はタイ語の歌詞を作れません。でも日本語の歌詞の曲はできますよ」って言いました。Hiroshiさんは「良いんじゃないか?」って。最初はデビューできると思わず、面白いからやってみようと言う感じでしたね。
--Hiroshiさんは自分のルーツが日本にある訳ですから、嬉しいですよね。よく後から入ったメンバーの話に、他のメンバーも乗ってくれましたね。
GT:作詞作曲は全て僕がやってるので、大丈夫です。
--インタビューを始めて気になっているんですが、GTさんがバンドサウンドとか世界観を全部作っているはずなのに、バンドのメンバーを「さん」付けで呼んだり、腰が低い後輩っぽい話し方をしていますよね(爆笑)?
GT:(笑)いや、だって僕はバンドでは一番後輩なんで。
アメリカでサウンドエンジニアの勉強をして、卒業してるのと、全パート自分で演奏はできるから、 録音、ミキシング、マスタリングを終えれば、音としては曲を完結できるんです。
でも僕はバンドをやりたいから、自分のやりたい音楽性に共感して、一緒にやってくれるメンバーがいることが凄くありがたいんですよ。
--ADORAのメンバーはラッキーですよね。ある日全部できる人がフロントマンとして加入して、デビューの話まで持ってきてくれたんですよね。
GT:ラッキーだと思ってくれてると思います(笑)。
--GTさんもラッキーですけど、GTさんと出会ったメンバ-がラッキーすぎて凄いですよ。(笑)。
GT:(笑)…。
--ADORAの歌詞は全てGTさんが担当していることになりますよね。自分の心の中を、日本語の抽象詩で表現することは、外国人にはかなり難しいテクニックだと思います。狂気じみた歌詞も、曲として聴けば、きちんと日本人に通じる。これは凄いことですよ。
GT:本当ですか!ありがとうございます。嬉しいです。でも僕、結構日本語を間違っている部分が多いと思いますけど(笑)
--えええっ(笑)?
GTさんとお話するまでは歌詞やMVの中のGTさんしか知らないので、「今日大丈夫かな?」と心配していました(笑)。でも、お話するとすごく真摯に音楽に向き合うまじめさと、絶妙な面白さがありますね。
GT:歌詞は80%は僕の身に起きた本当のストーリーから作ったものです。例えば『不思議な夢』は、僕が鬱病になった時に色々考えた事です。
--そうだったんですか?だからリアルなんですね。今は症状は落ち着いているんですか?
GT:通院して回復しました。でもやっぱり考え方とか、過去の思い出は忘れられなくて。あの頃は毎日毎日毎日夢の中に入っていたような感じです。
--『不思議な夢』や『Infernoids』は、そういう世界観の方なのかな、って思っていたんですけど、少し前にリリースした曲が、もの凄く楽しそうな『春風の中で』でしたね。
「春に恋人と一緒で、楽しいな~♪」みたいな(笑)。
これまで悲壮感のある歌詞やMVのイメージが強かったから、もしかしてこの歌詞には裏があるのかな?もしかして『不思議な夢』の主人公が、もっとヤバい所に行った夢なのかな?って深堀りして考えてしまいました。
それか PSYCHIC FEVERとのコラボ曲なので、わざとキャッチ―にしたのかな?とか。
GT:そうですね。単純に彼女ができただけです。
--そのまんまやないかーい(爆笑)!
GT:(爆笑)。『春風の中で』は無事に完成したんですけどね。バカやっちゃいまして、別れちゃったんです。
--今度は失恋した暗~い歌詞が出てくるかもしれないですね。ADORAの歌詞がしっかりとわかるのは、我々日本人だけなので、今後リリースのたびに、GTさん何かあったのかな?って、日本から緊張して聴きますね(笑)。
--そんなGTさんの恋愛中のウキウキラブソング『春風の中で』は PSYCHIC FEVERさんとコラボしていましたね。いかがでしたか?
GT:面白かったですね。
--コラボの話、Xで流れてきたとき「えっ?」って思ったんですよ。
GT:実は僕も「えっ?本当にいけるのかな?」とは思っていて(笑)、 皆さん全員…何ていうか凄くかっこいいですし、自分は大丈夫かな〜と思って(笑)。
僕たちとPSYCHIC FEVERでは雰囲気が全然違いますからね。
--Namさんがもの凄い笑顔でドラムを叩いてるのが印象的でした(笑)。
GT: PSYCHIC FEVER側で僕たちの曲を1曲、僕たちで PSYCHIC FEVERの曲を1曲選んでコラボしました。『春風の中で』はPSYCHIC FEVERのメンバーが選んだ感じですね。
--メンバー同士仲良くなれましたか?
GT:なれました。でも、皆さんシャイな感じでした。
--あー、それはですね、補足させて下さい。タイのアーティストってミュージシャンでも俳優でも例外を除いては、凄くおしゃべりじゃないですか。でも日本のアーティストって、初めて会った場合、タイ人ほどすぐに腹を割って話さないんですよ。
GT:僕もシャイなんです…。
--えー(笑)?とってもしゃべってくれている印象です…。
--先ほどサウンドエンジニアもできると話してくれましたけど、将来的にはそういう道に進むことも考えているんですか?
GT:今既にやってます。有名にならないと、バンドだけでは食べていけないんですよ。
--それ以前から凄く気になっていたんですよね。タイってインディーズを含めて星の数ほどミュージシャンがいるじゃないですか。みんなどうやって食べているのかなー?って(笑)。余計なお世話ですけどGMMからお金もらえるのかな?とか(笑)。
GT:もらっていますけど、まだまだなのでそんなにもらえないです(笑)。だから他のアーティストのアルバムのサウンドエンジニアとか、他の部分で裏方で入っていることもあります。BNK48一期生のユニットプロジェクトにも携わったことがあります。
--じゃあタイの曲を聴いていると、私たちはどこかでGTさんがサウンドを手掛けた、何かの曲を聴いている可能性があるんですね。将来ディレクターや、プロデューサーになっちゃうんじゃないですかぁ?
GT:僕、タイの歌詞のT-POPができないんで… なんていうか、できないかもしれない(笑)。
GTさんに聞く、GENE Labってどんなレーベル?
--日本でもT-POPやタイのバンドや、タイの俳優が好きな方が増えてきたんですよね。GMMってレーベルや傘下の子会社が、たくさんあるじゃないですか。
GT:多すぎて僕も全部わからないです(笑)。
--なかなか日本語でGMM傘下のGENE Labについて聞く機会がないので、教えていただきたいんです。GENE Labはどんなレーベルですか?
GT:COCKTAILというバンドのボーカリスト、Ohmさんがタイの音楽シーンを変えたいという気持で作ったレーベルです。
今はアーティスト自身が作ったレーベルが沢山できて、だいぶ環境が変わってきました。タイの音楽シーンもそれと同時に変わってきましたね。
GENE LabはGMM傘下のインディーズレーベルなんですよ。
--「Lab」だから実験的な試みもしているんでしょうね。ADORAは運良く所属できましたけど、このレーベルからデビューするためにはオーディションを受けるんですか?
GT:昔はオーディションもやっていたみたいです。でも最近はもうないです。大体はオーナーとかGENE Lab側が「このバンドが好きだから、レーベルに誘いたい」っていう感じで、声をかけます。
--デビューしたかったら、GTさんが飲みに行った居酒屋に行くしかない(笑) !
GT:(笑)…。僕の場合は0.0000001%の可能性で、デビューできましたけど、まず居酒屋に行ってもデビューはできません(笑)
--しかも酔ってオーナーに会ったことも忘れていたって言うの、ある種レジェンドですよね。
GT:ただ、インディーズレーベルなんですけど、契約はしっかりしています。当時の僕は別のアーティストと別のバンドも組んでいたんです。だからOhmさんに「僕はこのバンドもやっているんですけど、同時に活動できますか?」って聞いたら「契約上の問題があるからダメ」だと言われました。
そういうことはあるみたいです(笑)。
--結局GTさんもタイの音楽シーンに色々関わってきた人で、ド素人からいきなりデビューした訳ではなかったっていうことですよね。
--タイフェスティバルやNIPPON HAKU BANGKOK、Japan Expo Thailandと、
日タイを繋ぐイベントにはコンスタントに出演できているADORAですが、今後の野望を教えていただきたいです。
GT:子供の頃の夢は日本武道館公演だったんですけど
--夢が日本人アーティスト(笑)!
GT:(笑)…。今はもっとインターナショナルなイベントに出演したいですね。
FUJI ROCK FESTIVALとかSUMMER SONICにも、いつの日か出演することが夢です。タイのイベントだとMaho Rasop Festiva。
まだまだ夢ですがアメリカやイギリスでもライブができたらいいなあ、と思います。
それからADORAなら、アニメのオープニングもありじゃないですかねえ。日本のアニメのオープニング曲を歌えたら良いなと思います。
--日本公演がなかなか叶わないわけですが、その場合、日本のファンがADORAのライブを見に行くとすると、フェスしかない状態ですかね。
GT:僕らはフェスですね。フェス出演の際は、SNSでお知らせしています。
タイには丁度良いライブハウスが少ないんですよ。しかもフェスも今の主流はT-POPじゃないですか。Gene Labもロックの枠が欲しいんですけど、いきなりT-POPのアイドルグループが出ている中に、僕たち出演できないですよ。ジャンルが違いすぎて(笑)。
--Gene Labはかっこいいバンドが多いから、Gene Labでイベントをすれば出演しやすいでしょうねー。昔はパブでも有名なバンドのライブが見れたのになあ。
GT:あー、それは…もう、時代が変わりました(笑)。
--最後に、日本のファンの皆さんにメッセージをお願いします。
GT:ADORAの歌詞はまだ完ぺきな日本語ではないと思います。でも、たくさんの日本人の皆さんに聴いてほしいです。ADORAのことをよろしくお願いいたします。
既にGTのチェックが終わった記事を完成させようとしていたが、Xで流れてきた3月11日リリースの新曲「Betrayal(裏切り)」のteaserを見て手を止めた。新曲出るなんて、聞いてないよー(笑)!
これまでのADORAとはまた違う、地を這うような低音のボーカル、ダークで壮大なアレンジが特徴的で鳥肌の立つ名曲だ。
「この曲について聞かないと、このインタビューは完成しない!」と、追加取材を行いたいと申し出たところ、GTは快く応じてくれた。
--新曲「Betrayal(裏切り)」、想像を超えてきました。コンセプトを教えて下さい。
GT:Netflixのシリーズ『Arcane』を観たことから始まりました。めちゃくちゃハマって、「裏切り」や「家族同士の戦い」をテーマにした曲を作りたいと思ったんです。
曲的には重さや攻撃的な雰囲気を出しつつ、コード進行はシンプルにしたいと考えました。通常のADORAの曲はコードが多めなので、今回は少し違うアプローチをしてみました。
--もの凄いインパクトでした。前回の取材で「歌詞は実体験80%」とおっしゃっていたので歌詞を見て「なんかあったのか?」と心配しましたけど(笑)
GT:今回は全然違いますね(笑)!僕は誰にも恨みなんてないです(笑)。
ただ『Arcane』を観て、その勢いで作っただけ。深い理由はないです。
--今回の曲の特徴として、同じGene Labのメタルバンド「The Darkest RomanceのギターTaeさんfeaturing」というスタイルがありますね。どのように決まりましたか?
GT:まずバンド内で「誰か特徴があるギタリストとフィーチャリングしたいね」って話になりました。色々考えて、The Darkest RomanceのTaeさんが一番合ってるんじゃないか?っていう意見でまとまりました。
もともとADORAとThe Darkest Romanceは仲が良いんです。Taeさんに相談してみたら快くOKしてくれて、実現しました
--音的に重くなること必須の凄い融合なんですけれど、レコーディングはどのように行いましたか?
GT:まず僕とTaeさんで、僕のスタジオでギターソロのデザインについてじっくり話し合いました。結構時間がかかりました。色々なエフェクトや変わった音を試しながら「これだ!」っていうものを見つけて、最終的にMinerva Studioでレコーディングしました。
--新曲リリースの際、MVのteaserを作るじゃないですか。丁度インタビューの記事をまとめている時、Gene LabのXから流れてきたんですよ(笑)。コーヒーを吹き出しました。こわー!GTさん、斧を振り回してる(笑)!って。
GT:今回のようなアクション系のMVに出るのは初めてだったので、結構大変でした。
特に斧を振るシーンなんかは、どういう動きをすれば良いのか全然分からない(笑)。
「腕の使い方は? 力加減は?」みたいな感じで、全て初めての経験でした。
演技の経験もないので不安もあったんですけど、仕上がりを見たら思った以上に良くて、ホッとしました。
ADORAのフロントマン、GTは約束の時間ぴったりに現れた。
そして10か月前に少し話しただけなのに「あっ!こんにちは!」と、顔を覚えていて自分から声をかけてくれる律儀な青年だ。
心をかき乱されるような歌詞、狂気すら感じるMVでの表現力を見ていると、「ADORAのGTは無口な芸術肌の人かも?」と身構えてしまうが、全く必要なかった。
まじめに、そしてユーモアも交えて話してくれる彼は、バンド内での「後輩は先輩を立てなければ」という体育会系な姿勢まで、日本人のようだ。また「飲み物どうぞ」と薦めると、「失礼します!」と言って飲む礼儀正しさは、我ら日本人も改めて見習わなければと思った次第。
ああ、それなのに、新曲「Betrayal(裏切り)」のMVのGTが恐い!鉈を振りかざすその姿は、目の前にいた飄々とした青年とは思えない!
このMVだけではなく、ひとたび歌い出すと、作品の中の世界観に入り込む豹変ぶりは、彼の魅力の一つだろう。
T-POPやT-ROCK、ルークトゥン、モーラムなどタイには様々なジャンルがあり、日本ではT-POPを中心にタイの音楽が好きだという層が急増している。タイの音楽はタイ語でなければ!と考える方も多いかも知れない。ただ、「ADORA」の歌詞を深く理解できるのは、タイ人ではない。我々日本人か、抽象的な表現までわかるレベルの日本語ネイティブ外国籍の方しかいないのだ。
だからこそ、一度「タイの音楽」から「タイで活動しているバンド」に頭を切り替えてチェックしてみてほしい。泰・日・米で影響を受け続けたレベルの高い楽曲に驚くはずだ。
取材・文:吉田彩緒莉(Saori Yoshida/Interview・text)
撮影協力:Moxy Bangkok Ratchaprasong
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ADORA
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https://www.instagram.com/adora.aroda.adora/
Gene Lab Records
https://x.com/GeneLabRecords
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