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本国タイでは年間映画ランキング1位、アジア各国でも話題となり、日本でもヒットしたことが記憶に新しい『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリヤ監督が、ウォン・カーウァイ監督とタッグを組み制作した話題作『プアン/友だちと呼ばせて(英題:One For The Road、タイ題:วันสุดท้าย..ก่อนบายเธอ)』が、2022年8月5日(金)、遂に日本で公開される。
監督やプロデューサーの話題性だけではなく、キャストもタイの演技派・個性派揃い。
中でも主演の1人、たった1か月半で17キロもの減量を成功させ、余命いくばくもない白血病の青年ウードを演じたアイス・ナッタラットは、私たちに強烈なインパクトを与えてくれる。
ニューヨークで暮らす貧しく不器用な青年から、病魔にむしばまれガリガリに身を細らせながら、淡々とした口調で悟りきった表情を見せる青年への変貌は実に見事。この物語になくてはならない中心人物だ。
バズ・プーンピリヤ監督自身の半自伝的映画である本作でのウードの位置づけは、監督自身であり、監督の親友で奇しくも同じ時期に白血病で逝ったロイドを両方投影した難しい役どころ。
まさに身を削りながら演じ切ったアイス・ナッタラットはどんな人?
タイランドハイパーリンクスではアイス・ナッタラットに独占インタビュー。映画では本当に病気なのではないか?と思うほどやつれはてた姿を見せていた彼だが、オンライン上とはいえ、健康そのもの。それくらい、彼の演技が自然だったことを改めて感じさせられた。
また、質問に対し、事細かに説明してくれる真摯で真面目な人柄にも注目してほしい。
--ウード役はアイスさんしかいないと監督が絶賛していましたね。
監督の個人的な部分を投影した役なので、演じられたこと自体が光栄だし、監督が僕のポテンシャルを見てウード役にピッタリだと思ってくれたことも、嬉しいです。
--プーンピリヤ監督ということだけではなく、ウォン・カーウァイ監督プロデュースということで、オーディションは緊張したのではないですか?
オーディションは全く緊張しなかったですね。実はオーディション当時、ウォン・カーウァイ監督のプロデュース作品だとは知らなかったんですよ。おかげで緊張することなく挑めました。
--あ、なるほど。オーディションに2人勢ぞろいしていたわけではないんですね。
バズ・プーンピリヤ監督のことは知っていました。過去に短いプロジェクトで一緒に仕事をしたことがあって、監督とはまた絶対に一緒に仕事をしたいとずっと思っていたんです。
とにかくよく準備をしてオーディションに臨んで、監督の前で精一杯演技しました。
ただ…緊張と言えば、この役が決まってからウォン・カーウァイ監督プロデュース作品だと知って、そこからすごく緊張しました(笑)。
長期の撮影ですし、役に深く入り込まなければならないプレッシャーも感じましたね。
でも、ウォン・カーウァイさんと仕事ができるなんて夢にも思っていなかったので、とにかくうれしかったです。
--今日お顔を見て安心しました。健康そうなので
(笑)・・・。
--ウード役のために1か月半で17キロも減量したと聞きました。大変だったでしょう?
もの凄く大変でした…。でも集中して目標を達成できました。
--どんな方法だったらそんなにスピーディーに体重が落とせるんですか?
当然、食事の量は減らしました。ヨーグルトと、食事の代わりに果物を食べました。ほぼビーガンの食事だと思ってください。それだけではなく、運動の量も増やしましたね。有酸素運動と水泳…。短い時間に目標を達成するために綿密な計画を立てました。
例えば4日で1㎏痩せるにはどうすればいいか…17キロを1か月半で落とすには食事の量はどれくらいで、有酸素運動の時間はどれくらい必要なのか、計画を立てて取り組みました。
--それだけヘビーな役作りをしていて、日常生活は送れるものなのでしょうか?具合が悪くなりそうですけど。
確かに最初だけは調子が悪くなりました。やっぱり胃と身体が慣れないせいなんですよね。
例えばいくつかのビタミンが欠乏するとか。
個人的に医者に相談しました。
「このビタミンを接種するにはどのサプリメントを飲んだらいいか」「どの食品から何を摂取すれば効率よく栄養が取れるか」とか…それもあって、そんなにひどい状態にはなりませんでした。
--良かった…。1か月半で17キロなんて普通ならあり得ない数値ですもんね。
--もう一人の主演、ボス役のトーさんとはこの映画で初対面でしたか?
実はトーとは10年前から知り合いで。当時は2人とも同じ芸能事務所に所属していたんですよ。
--あっ!そうだったんですか?
はい。当時は2人ともモデルの仕事をしていました。
その後トーは俳優の仕事に力を入れて、僕はモデルの仕事をメインにしていたんですけど、その5年後に、自分も役者としてまた同じ事務所に所属しました。
トーとはしばらく会っていなかったんですけど、この仕事で10年ぶりに会いました。本当に偶然だったんです。
--同じ場所にいた2人が数年ぶりに会うなんて『プアン~』の設定と同じですね。
そう、そうなんですよ(笑)!
それ、バズ監督にも話したんです。そしたら「実生活でも久しぶりに会う二人の関係性は映画に活かせるね」って言われましたね。演技をしていても久しぶりに会った友達と言う距離感とか久しぶりに会ったうれしい気持ちはホンモノでしたし、スクリーンにも二人の関係が現れていたと思います。だからこそ、リアルな演技になったんじゃないかなって思っています。
--メソッド演技のために、ニューヨークで実際にタイ料理屋で働きながら撮影したそうですけど、凄いですね。こんな経験は初めてではないですか?
はい。はじめてです。
--働いてみて演技で役に立ったことや、個人としてプラスになったことはありますか?
そうですね…働いてみることによって、ウードのように海外で働いている人の気持ちを理解できました。異国で黙々と働いていると、どんなに孤独なのか、どんな問題を抱えているのか。
演技以外でプラスになったことは、タイ人、外国人問わず、新しい友達ができたことです。お店で働いている時に、いいアドバイスをもらえましたし、自分の人生経験でとても良い影響を与えてもらった時間だったと思います。
--これまで数々の映画やドラマに出演していると思いますが、アイスさんにとってウードと言う役はどんな存在になりましたか?
ウード役は自分の人生や生き方を見つめ直すきっかけになりました。
これからどう生きるべきかを考えたり、過去にやった良い行い、悪い行いを振り返ったり、周囲の人に対する接し方などについても、考えるようになりました。
このウードという役は、僕の人生にボーナスのようなものを与えてくれたと思います。
--ウード役を演じるにあたり、余命宣告を受けた人たちにお会いしたと聞きました。余命宣告を受けた方たちのグループセラピーだったり、監督の親友、ロイドさんだったり…ウード役を演じるにあたって、どんなことを彼らから受け止め、役に活かせましたか?
彼らを理解した上での表現になりますが…まず物事にこだわらないという姿勢を感じました。それに死と言うのはいつでも、誰にでも訪れるということが、よく理解できましたね。余命宣告をされて、少しずつ他人を許せるようになったという話も聞きました。
人はみんな過去に悪いことをしたり、戒律を犯すようなこともある。
彼らと出会って理解した中で、ウードを演じるときに「人生が残り少なくなった時に、過去に犯してしまったことを、どうやってリカバーできるのか。残された人のために何ができるのか」をかみ砕いて演じました。
--もし自分が余命宣告されたら何をすると思いますか?
僕自身ですか?
--はい!
以前と変わらない生活をすると思うんですけど…遊びに行く回数は増やすかなー…(笑)。特に日本には必ず遊びに行きたいです。
--おおお!日本に?
実は新型コロナウィルスが落ち着いたら、日本に遊びに行く計画を立てていたんですよ!今年の年末に日本に遊びに行きます。
--もうすぐじゃないですか。
そんなふうに、もし僕が余命宣告を受けたら、計画を立てて精一杯色々な所に遊びに行くと思います(笑)。
--日本はどこに行きたいですか?
京都、東京、奈良ですね!
--今回、ウードとボスはタイの各地を巡りましたが、どこが印象に残っていますか?
チェンマイです。
--チェンマイはターぺー門も出てきましたね。
チェンマイと言うか、ウードが写真家のルンさんの家に行くシーンがあったじゃないですか?その途中に通る、道の両側に大きな木が生えている場所が好きです。
--ああ!わかります。凄くきれいでしたね。ところでアイスさんはタイのどちらの出身ですか?
僕自身はバンコク出身ですけど、北部のチェンマイとつながりが強いです。僕の母親がチェンマイ出身なんですよ。
--やっと日本とタイが行き来できるようになりましたが、アイスさんが日本からタイに来た観光客に行ってほしいタイの都市はどこですか?
うーん…日本人がタイで旅行するなら…ですよね。
--はい!
まずバンコクで2~3日過ごしてほしいです。そして南の海に行くとして、プーケットに行ってください。山の方に行くとしたら、チェンマイ。
まとめると、バンコク、チェンマイ、プーケットですね!
--『プアン/友だちと呼ばせて』が公開されることではじめてアイスさんを知る日本人も多いと思います。日本は今タイのドラマなども注目されていて、タイの俳優さんにスポットが当たっている状態だと思いますが、この状況をどう感じていますか?
いや、もう予想外のことだらけだと思っています。
まず、自分の出演している作品が日本で公開されるなんて予想外、こうして日本のマスコミの方に取材を受けるのも予想外なので、どう感じて良いのかわからないです(笑)。
日本でこの映画が公開されて、どんなフィードバックがあるのかわかりませんが、この映画を見て日本の人がどんな感想を持つか、非常に興味があるし、感想を聞かせてほしいです。
--『タイランドハイパーリンクス』はタイが好きな日本人が読むウェブサイトです。メッセージをお願いします。
タイを好きになってくれてありがとうございます。タイに遊びに来てくれてありがとうございます。
やっとタイに旅行に来れるようになったので、ぜひ遊びに来てください。よく日本の観光客を見かけるんですけど、僕は色々アドバイスもできますので(笑)。
僕も日本が大好きでよく旅行します。
本当にタイを好きになってくれて嬉しいし、光栄です。
--コップンカ―!
アリガトウゴザイマシタ(日本語で)
[記事・取材 吉田彩緒莉]
<STORY>
NYでバーを経営するボスのもとに、タイで暮らすウードから数年ぶりに電話が入る。白血病で余命宣告を受けたので、最期の頼みを聞いてほしいというのだ。タイに駆けつけたボスが頼まれたのは、元恋人たちを訪ねる旅の運転手。カーステレオから流れる思い出の曲が、二人がまだ親友だった頃の記憶を呼びさます。忘れられなかった恋への心残りに決着をつけたウードを、ボスがオリジナルカクテルで祝い、旅を仕上げるはずだった。だが、ウードがボスの過去も未来も書き換える〈ある秘密〉を打ち明ける──。
One for the Road วันสุดท้าย..ก่อนบายเธอ
[監督]
バズ・プーンピリヤ『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
[製作総指揮]
ウォン・カーウァイ『花様年華』『恋する惑星』
[脚本]
バズ・プーンピリヤ、ノタポン・ブンプラコープ、ブァンソイ・アックソーンサワーン
[出演]
トー・タナポップ アイス・ナッタラット プローイ・ホーワン ヌン・シラパン ヴィオーレット・ウォーティア/オークベープ・チュティモン
タイ/2021年/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/129分/字幕翻訳:アンゼたかし/監修:高杉美和
©2021 Jet Tone Contents Inc. All Rights Reserved.
配給:ギャガ
HP:gaga.ne.jp/puan Twitter:@puan_movie facebook:facebook.com/gagajapan LINE:gagamovie
8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次公開
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