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2016年1月30日、バンコクでユニークな試みが行われました。
場所はBTSプラカノン駅からほど近い場所にある沖縄料理店「金城」。ここであるルークトゥン歌手と日本のミュージシャンのコラボレーションが企画されました。
ルークトゥン歌手というのは前回の当コラムで紹介したブア・ガモンティップ(参照 第23回 ブア・ガモンティップ:ただ今、人気急上昇中!現場力No.1歌手)。そして、共演者は日本でも1990年代に一世を風靡したバンド「たま」の元メンバー石川浩司さん。
石川さんは年に1回のペースで訪タイしてコンサートを開催していて、今回の企画もその一環として計画されたようでした。
◆沖縄料理店「金城」(プラカノン)
この企画の中心となったのは、タイ音楽ファンには良く知られているルークトゥンを専門にしたブログ「ルークトゥン・タイランド」の執筆者そむちゃい吉田さん。
そむちゃいさんからこのコンサートの事を聞いた時は、あまりに異質な組み合わせということもあって、正直どういうコンサートになるのか全く想像できませんでした。かくいうそむちゃいさんも、自身で「博打だった」と言っているほどでした。
まず、演奏そのものがどうなるかが分かりませんでしたし、お客さんもどういう人たちが来るのか予想できませんでした。
今回のコンサートは2015年7月に同じく金城で行われた「アコースティック・ルークトゥン」の第2弾として企画されました。
◆アコースティック・ルークトゥンVol.1:イム・スティダー(2015年7月18日)
第1弾の歌手イム・スティダーは日本でも歌った経験のある、日本人にも良く名前が知られた歌手ということもあり、9割以上のお客さんが日本人で占められていました。
しかし、今回のブアは前回のコラムでも触れたように、タイはおろか日本での知名度もまだまだな歌手。沖縄料理店でのコンサートということもあり、基本的に日本人へ告知される為、どれくらいの人が反応してくれるのか未知数でした。
そんな不安を他所に、予約を開始されると早々に満席に。さらに幾つかのタイのメディアでも、このコンサートが報じられ、注目度の高さに他人事ながらホッとしたものです。
とは言え、不安要素はまだまだありました。それは石川さんがブアの音楽に対してどう反応するのかという事です。
石川さんはリハーサルを一切しない人という事で、当日もコンサート開始直前まで姿を見せませんでした。
さらにブアの音楽、あるいはルークトゥンに関しては何の知識もないはずです。そんな音楽に対して石川さんがどういうアプローチをしてくるのか。今回のコンサートが鍵はそこにあると筆者は思っていました。
◆本番前のリハーサル風景
反対にブアは1ヶ月ほど前から綿密にリハーサルをしていたようで、当日も本番直前までメンバーと細かい打ち合わせをしていました。
開演時間が近づいてくると、予約していたお客さんがゾクゾクと来場。さらにルークトゥン業界のVIPもやってきたり、タイのメディアが5社も取材にくるなど、このコンサートの注目度の高さがうかがい知れました。
◆本番直前のブア・ガモンティップ
コンサートは予定を40分ほど過ぎてから開始。まずは石川さんによるギターの弾き語りからスタートです。
独特の世界観のある石川さんの音楽には日本人でも簡単に理解できませんが、日本語で歌われるその歌に、そばにいたタイ人もポカ~ンとしてました。
次にブアが相棒の一人であるゲックを引き連れて登場。ただ、いきなり石川さんとの共演でなく、まずはこちらもアコースティック・ギターをバックに数曲披露。
前日急遽決まったというこのセットでしたが、いきなりトップギアでスタートするよりも、これが良いクッションになり、ブアの歌を初めて聴くお客さんにも心の準備が出来たような気がします。
そして、このセットで2曲歌った後、再び石川さんが呼び込まれて、ようやくブアと日本のミュージシャンとの競演がスタートです。
開始直後は手探り状態だった石川さんも、徐々にブア達の音楽が飲み込めて来たのか、演奏が全体に馴染んできました。
通常の楽器は使わず、身の回りにあるいわゆる「ガラクタ」を使って演奏する石川さんのパーカッションは、聴いている我々も正直、最初は邪魔なだけの印象でしたが、時間が経つにつれてバンドの音に溶け込んでいくのが手に取るように感じられました。
石川さんの演奏を初めて間近に見るブア達も最初はあっけに取られていたようでしたが、時間が経つにつれてヴォルテージも上がってきて、後半はこの日初顔合わせとは思えないほどの一体感のある演奏を繰り広げてくれました。
お客さんの反応も最高で、ブアの音楽はもちろん、ルークトゥンを初めて聴く人たちも沢山でいたと思いますが、あまり自ら率先して踊らない日本の人たちも、素直にブアの音楽に反応してくれて、大盛況の内にコンサートは幕を閉じました。
コンサート終了後、ブアはお客さんとの写真撮影やサイン、さらにメディアの取材などに取り囲まれて、なかなか開放してもらえない状況になっていました。
◆取材を受けているブア達
実はこの後、彼女はすぐに別の場所でのもう一つのコンサートへ直行しなければならなかったのですが、それだけお客さんがこのコンサートに満足してくれていた証拠だったのではないかと思います。
ただ、ブア自身もまんざらではない様で、この時撮った写真では、今まで筆者が見たなか
でも最高の笑顔をカメラの前でしてくれました。
金城の新しいライブスペースのこけら落しとして開催された今回のコンサートでしたが、最高の形で実現できたのではないでしょうか。
そして、このコンサートがキッカケで、日本とタイとの音楽的交流が深まり、新しい展開が生まれてくるのでは、そう考えるとすごくワクワクしますね。
◆コンサートの模様が取り上げたメディア。タイではよっぽど大きなコンサートなどでなければ、ルークトゥンのコンサートが取り上げられる事は滅多にありません。
さらに、タイでも日本でもまだまだ名前が知られていないブアが、このコンサートを機に大きくステップアップしてくれれば、彼女を応援して来た身としてはこれほど嬉しい事はありません。
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