サイアム系で行こう! http://blog.livedoor.jp/fuku_bangkok/
タイ在住の日本人、特に若い年代層の多くがチェックしているブログ「サイアム系で行こう!」。 近年タイの音楽、カルチャーはタイ独自の文化を絶妙のバランスで取り入れながら驚くほど進化し、在住外国人や、旅行者も存分に楽しめるレベルにある。「サイアム系で行こう!」はそんな現在タイの最先端タイポップス、タイロックを中心に、今を生き生きと楽しむタイ人の流行がわかる読み応えのあるブログだ。当然ながら在タイ日本人も、タイカルチャーを楽しむ人が多く、タイ人に混ざってクラブやライブハウスで盛り上がり、どっぷりとタイのナイトライフを楽しんでいる。そんな人たちにとってfukuさんの発信するタイの最先端カルチャーはとてもありがたい存在だ。
バンコクに住みついて11年というfukuさん。彼はなぜ、こんなにもタイのカルチャーにはまってしまったのだろうか。そして、彼を引きつけたタイの魅力とは?
Q fukuさんはタイに住んでどれくらいになるのですか?
今年の1月で11年になりました。最初は「ちょっと住んでみたいな」くらいの軽い気持ちだったんですが……。思った以上に長くなってしまいました。
Q バンコクに初めて来たのは何かきっかけがあったのでしょうか?
バンコクにはもともと偶然やって来たんです。最初に務めていた会社を1999年11月に辞めて、翌年の2月にかけてバックパッカー旅行をしたんです。その時に、中国雲南省からアンコールワットを目指すルートで立ち寄ったのがバンコクでした。
Q どんな旅だったのですか?
旅に出た時点では中国の次にどこに行くのか決めてなくて、漠然と「アンコールワットかチベットに行きたい」と思っていたんです。それで、出発前にダライ・ラマの自伝と一ノ瀬泰造の『地雷を踏んだらサヨウナラ』を買って、旅の途中で2冊を読み比べて面白そうな方に行こうって。
結局、『地雷~』の方が面白かったし、雲南省からチベットに行くルートは道がかなり険しいし、冬でめちゃくちゃ寒いし、ってことで南下する事に決めました。バンコクって街のことを知ったのはその後です。
Q その時のバンコクの印象は?
ガイドブックのバンコクのページを読んでいて一番魅力的だったのは「日本語の書店がある」ということ。その時は中国に滞在して1カ月経っていて、手持ちの本を読み尽くして活字禁断症状になっていたんです。寝ていても書店に行って本を買う夢を見るくらい。カゴに次々と欲しい本を入れて、レジに「これください!」って勢い良くカゴを置く夢なんですけど、そのカゴを勢いよく置く「ドン!」という音で目が覚めるんです。あれは辛かった……。
だからバンコクに着いて最初にしたことは書店巡りですね。といっても新刊本は高いので、カオサンの古本屋に半日入り浸って何冊か欲しい本を買って。で、「伊勢丹って所に紀伊國屋書店がある」ってんで、カオサンから歩いて行こうとしたり。
それまで中国の田舎やラオスの小さな町しか回って来なかったんで、感覚が麻痺してたんです。ろくな地図も持ってなかったこともあって、迷って迷って。いろんなタイ人に道を聞きながら歩いて、結局8時間くらいかかりました。
この時に、王宮から中華街の古い街並みを眺めながら歩いたり、サイアムのおしゃれな女の子を眺めたり、最終的にはサイアムセンターやワールドトレードセンターあたりの都会っぷりに驚いたりしてバンコクという街を堪能したのが、この街を気に入るきっかけになったんです。
当初はバンコクは経由地で、日本語の本を仕入れたらさっさとアンコールワットに行ったりタイ国内をぶらぶらしようと思っていたんですが、結局カオサンに1カ月も滞在しちゃいました。あ、もちろんアンコールワットにも行きましたよ。
とにかく飽きないんです、バンコクは。外に出るたび、人でも物でも、面白いものが何か必ず見つかる。それで、日本に帰ってからもいつかバンコクに住みたいと思うようになりました。
この時は15本くらいタイ音楽のテープを買い込んで帰ったのですが、それがタイ音楽にハマるきっかけにもなりました。日本に帰ってからは延々とそのテープを聴いて。
Q 現在はバンコクでクリエイティブ系の仕事をされているそうですが、仕事とはどのように出合ったのでしょうか。
日本に帰ってからは、いつかタイで働きたいと思いながら、仕事しながらタイ語学校に通っていたんです。ちょうど1年くらい通った時に、先日亡くなられた大川さんという方が主催していたメーリングリスト「タイで働きタイ!・求ム、日本人!」に今の会社からの求人が流れて来たんです。
日本からメールで応募してみたら「では面接に来てください」となって。ちょうど7月だったので、8月のお盆休みを利用して面接に行ったんです。ありがたいことに採用通知をいただきました。
Q 日本でも同じ系列の仕事をしていたのですか?
はい。タイにはずっと住みたかったんですが、どんな仕事でもいいわけじゃなくて、同じ職種で続けたいと思ってました。希望どおり仕事が決まったのは本当にラッキーだったと思います。
Q ブログタイトルの「サイアム系」という言葉は、タイの若者に元々あった言葉なのでしょうか。日本で言うと「渋谷系」とか、そういうくくりになりますか?
これは僕が勝手に作った言葉です。ブログを立ち上げる時にほかとカブってない名前を考えようと思って。で、語呂の良さとか覚えやすさなどを考慮しつつ、ほかで使われてなくて、それを見た時に「タイカルチャーに関するブログだ」と一発で分かる言葉、ということで「サイアム系」という言葉を考えました。
もちろん、元ネタは「渋谷系」です。サブカルつながりで「宮台真司の『野獣系でいこう!!』が元ネタ」と言われることもありますが、宮台真司の本は一冊も読んだことがないです。
ブログを立ち上げた当初はサイアム周辺がまさに若者文化の発信地で、新しい音楽・映画・ファッションはほとんどがこのサイアム周辺で生まれてくる、という状態でした。
今は、タイ発ファッションはサイアムにかなり重点が置かれているけれど、音楽についてはFacebookやYoutubeも発達してるし、サイアムスクエアの中心地だったセンターポイントがなくなってからはそうでもなくなっている気がします。当時はセンターポイントで毎週のように無料の音楽イベントが開かれてましたし、その脇に「DJサイアム」とか若者向けのCDショップがたくさんあって新しいタイ音楽をどんどん発信してましたけど、今はだいぶその役割を終えている気がします。
Q とても幅広いジャンルのアーティストを紹介しているのですが、fukuさん自身が好きなジャンルはどんなアーティストで、どんなところに魅力を感じていますか?
やっぱり好きなのはロックです。いろんなジャンルのライブを観に行きますけど、ロック系の上手いバンドの音やパフォーマンス、観客のノリがかちっとハマった時のアガり方は半端じゃないです。
Q お薦めのアーティストを何組か教えていただけますか?
■Moderndog
1994年から活動を続けているオルタナティブ・ロック・バンドで、Radioheadなど当時流行っていたUKオルタナティブの音作りをしつつ、タイらしい歌詞世界を展開して一気に注目を浴びました。当時、タイの音楽ファンは「タイの曲なんてイケてないから洋楽しか聴かないよ」という人ばかりだったのですが、そんな彼らを振り向かせたのがこのModerndogや、当時同時多発的に出てきた、いわゆる「タイ・オルタナティブ」と呼ばれるアーティストたちです。彼らの代表曲「ブッサバー」は、当時のサブカルキッズたち、今は成長してタイのサブカルシーンを作り上げている大人たちにとっての国歌のような曲です
★オススメ曲「บุษบา(ブッサバー)」 Youtubeで検索
■Lomosonic
2009年に都会派インディーズ・レーベル「Smallroom」からデビューしたポスト・ロックバンドですが、彼らはとにかくライブ・パフォーマンスがすごい!まずライブ中のダイブは当たり前。客が大勢いる時はもちろん、30人くらいしかいないライブでも果敢に飛び込んでいきます。ファンも「必ずダイブする」と知ってるのでガッチリと受け止める。これに加えて、いきなり顔面を白塗りにしたり、マイク無しで喉の限界までシャウトしたり。観客同士肩を組ませて、全員で一緒にジャンプしたり。毎回違ったパフォーマンスで客をのせてきます。とにかく熱いパフォーマンスが見たい時は彼らのライブに足を運んでください。
★オススメ曲「ถึงเวลา(トゥン・ウェーラー)」
LOMOSONIC – ถึงเวลา… (Wake) [Official Music Video]
■Ae Jirakorn
昨年大ブレイクした男性歌手です。もともとは各地のパブでカバー曲を演奏しているバンドの一員だったのですが、その持ち前の声の良さを認められて2011年にメジャーデビューしました。ハリがあってよく伸びる声で、聴いていてとにかく気持ちいいんです。
タイ人はけっこうこういうしっとり聴かせる曲が好きなので、出す曲出す曲すべてヒットしています。
個人的にはパブで演奏していた時のほうが激しくて好きなんですけどね。
★オススメ曲「ใจกลางความรู้สึกดีดี(ジャイ・グラーン・クワーム・ルースック・ディーディー)」
ใจกลางความรู้สึกดีดี – เอ๊ะ จิรากร [MV]
Q 個人的な見解でも構わないのですが、今タイの若者の間で熱いジャンルは何だと思いますか?
今熱いジャンルはエレクトロニカ系ですね。2011年頃からアメリカではEDM(エレクトロニカ・ダンス・ミュージック)が一大ブームになっていて、タイでもその影響でEDMが流行ったり、エレクトロニカ系の音を多用するアーティストが増えてきています。人気のパブに行くと盛り上がる時間にはやっぱりこのEDMが流れますし。
タイが豊かになってきたのも、エレクトロニカをやるアーティストが増えてきた理由の一つだと思います。エレクトロニカは機材が高いので、これから音楽をやろう、という若者にはなかなか買えないんです。それが、豊かになって以前に比べるとだいぶハードルが下がったんじゃないかと。
エレクトロニカ系でおすすめのアーティストは
■Mahajamreon
とにかく格好いいエレクトロニカ・ライブ・バンドです。楽曲における静と動の絶妙なバランス、タイの伝統音楽やモーラム、ルークトゥンの要素を取り入れつつも新しいサウンドを生み出しているところ、そしてライブでのパフォーマンスの質の高さ。どれをとっても文句なしです。
★オススメ曲「Maha soy」
■Boom Boom Cash
とにかくアガるパーティー・ダブステップ・バンド。タイのほかのアーティストとは完全に一線を画した音作りをしていて、面白いです。
Chang(ビールメーカ)が主催したミュージック・コンテスト、これはBodyslamの曲をカヴァーして競うものなのですが、原曲の良さを生かしつつ、でもまったく違った楽曲に仕上げて優勝を果たしました。彼らのライブはとにかくヤバいです。まだ自分たちの曲が少ないので基本的には有名な曲のカヴァーをやるのですが、原曲とはまったく違った雰囲気に仕上げて、しかもアガる。「えっ、あの曲をこんな風に作り変えちゃうの!? どうやったらこんな発想が湧いてくるんだ!?」と、いつも新鮮な驚きがあります。さらにメンバー全員が筋金入りのパーティーピープルで、盛り上げるコツもすごくよく分かっているので、観客のリミッターが外れるくらい盛り上がります。
今最も注目の新人です。
★オススメ曲「BLUR BLUR」 YouTubeで検索
■Gene Kasidit
これは日本でも以前話題になったFutonという無国籍エレクトロニカ・バンドのボーカルです。バンドを辞めてからソロで活動しているのですが、前は男性だったのがどんどん女性要素が増えてきて、今ではタイを代表するドラァグクイーンみたいになってます。歌声や歌詞にも中性的な要素がふんだんに反映されていて、ある意味タイならではの音楽性を創り上げています。
★オススメ曲「Life Goes On」
Gene Kasidit – Life Goes On. 1st MV. from Affairs.
■Polycat
彼らはチェンマイのインディーズ・シーンから出てきたバンドですね。バンド名の「Poly」はKORG社のシンセサイザーの名前が由来ということで、シンセサイザーの音を多用するダンス/ポップバンドです。シンセサイザーの音が格好いいし、曲の進行も気持ちいい。ライブで観ると音源よりも重低音がゴリゴリでさらに上がります。
ちなみに彼らは以前は「Ska Rangers」名義で活動していたのですが、バンコクを舞台にしたハリウッド映画『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』にも出演していたりもします。
★オススメ曲「มิดชิด(ミッチット)」 YouTubeで検索
Q fukuさんはクラブやライブハウス、パブのレポートもしていますが、お気に入りの場所をいくつか教えてください。また、どんな所が魅力ですか?
最近は以前ほどは頻繁に夜遊びに行かなくなったので、あまり最近の事情には詳しくないのですが……。
■MUSE(トンロー・ソイ10)、Funky Villa(同)、ナンレン(エカマイ・ソイ5そば)
流行りのパブに行きたいなら、この3軒のどれかがお勧めです。どれもバンド/DJのレベルが高くて特に週末は3軒どれもがタイの若者でパンパンに膨れ上がります。個人的にはMUSEのバンドの選曲が好みです。
■Skytrain Jazz Club(ランナム通り)
古ぼけた雑居ビルの屋上を使ったルーフトップ・バーです。屋上からBTSが眺められるので、この店名になっています。ビールが安い上に料理もなかなかレベルが高く、ジャズ中心の生演奏もいい感じで、友達とまったり喋りながら飲みたい時はここに来ますね。トイレが汚いのが玉に瑕ですが……。
■Cosmic Cafe(RCA)
若者向けFMラジオ局「Fat Radio」「FM One」の目の前にあるバー。インディーズのバンド、主にロック系のライブがけっこう頻繁に開催されています。客層もコアな音楽好きが多くて、RCAのほかの店とは違った雰囲気で気に入ってます。料理はフレンチフライに唐辛子粉をまぶした「コスミック・フライ」がお勧め。「暴君ハバネロ」をアツアツにしたようで辛うまです。「コームーヤーン」もジューシーでビールに合いまくりです。
Q タイのエンタテインメントの魅力はどんな所にあると思いますか?
魅力の一つは「ちょうどいいサイズ感」ですね。音楽でも映画でも、それ以外のエンタメでも、ほとんどすべての動きがバンコクで起こるので、非常に把握しやすい。興味さえあれば、音楽・映画・出版・ファッションその他もろもろの主だった動きを一人でもなんとなく追うことができる。全体像がつかみやすくて、全体が見えるとまた新しい面白さがある、という感じです。いま自分がちゃんと全体像つかめてるかは自信がないですが……。
さらに、バンコクという小さな範囲であれこれ起こるので、どこか1カ所で起こった動きが次々と伝播していったり、違ったジャンルのアーティスト同士のコラボが次々と生まれたりするのも面白いですね。小さな花火がパンパン上がって、また次の花火に着火して……全体としてすごい華やかな花火になっていくようなイメージです。
バンコクという小さい範囲とは言え、どんなジャンルにも必ず数人は「これは!」というアーティストがいるのも面白いですね。
Q バンコク以外で気に入っていて旅行などで出かける場所はどこですか?
やっぱり一番はチェンマイですね。ゆったりと空気が流れている感じが好きです。ピン川沿いのレストランでビールと北タイ料理があれば何時間でも過ごせますね。その一方で、観光スポットやパブなどのナイトスポットも充実しているので、アクティブに過ごそうと思えばバンコク以上に遊べる所も好きです。
Q fukuさんはこれからもずっとタイにいたい!と思いますか?
う~ん、どうでしょう。帰りたいと思うこともありますけど、いま日本に帰ってやりたい事があるわけじゃないし、いまの仕事も気に入っているので、なんだかんだいってズルズルとタイにいると思います。居心地はいいです。
Q 時々日本に里帰りすることもあると思うのですが、タイに長くいる目線で感じる日本の良さはどこでしょうか?
なんと言っても四季や自然の美しさですね。日本はどこに行っても本当に景色が美しい。そして空が青い! 日本の景色を眺めると、本気で帰国したくなります。あとは書店の充実ぶりも。日本に帰ると必ず半日は神保町で書店巡りをして、本の買いだめをするようにしています。
Q fukuさんにとってバンコクとはどんな場所でしょう。
毎日何か面白い物が見つかる遊び場ですかね。11年住んでいて飽きないんだから、この先一生居たとしても飽きないと思います。
Q 「サイアム系でいこう!」は、人気ブログなのですが、続けていくモチベーションはどこから湧いてくるのですか?
やっぱりバンコクという街や、そこから生まれてくる物の面白さがモチベーションにつながっているんだと思います。この面白さをもっと深く、もっといろんな人に知ってもらいたい、と思いながら書いていますね。今のブログはもう8年もやっていますが、音楽にしろ、映画にしろ、その他の物事にしろ、8年間ずっと常に書きたいネタが次々と沸いてきている状態です。本当はブログに書いている3倍くらいはネタがあるんですが、書く時間が足りなくて諦めているんですよ。それから、読者の存在も大きいですね。ときどきいただくコメントだったり、「いいね!」の数やアクセス数を見ると、「これだけたくさんの人が読んでくれてるんだ」と実感して、書く力が湧いてきます。
Q 書くのが面倒になったことはありませんか?
ないです。が、3日くらい休んじゃうと、ブログの書き方が分からなくなって、なかなか書き出せない事はあります。「あれ、ブログってどう書いてたっけ?」って。書き始めるとすぐに思い出せるんですが。
Q fukuさんにとってブログとは何ですか?
答えるのが難しい質問なので、これははぐらかさせていただきます。
ブログとはズバリ「愛」です。
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ブログの文章力はもちろん、タイでは有名某誌の仕事に携わるだけに、質問の一つ一つに熱い思いや、タイという国の魅力を存分に感じさせてくれたfukuさん。これからも「タイの若者の最先端」を、バンコクの街から発信し続けてくれることだろう。
(2013年4月19日掲載)